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隈研吾建築都市設計事務所主宰 隈 研吾 × 谷口 正和 スペシャル対談「未来都市のあり方」

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世界人口が70億人を突破し、留まることなく人口爆発が進行していく中、都市にはその7割もの人々が住んでいる。誇張を続ける都市において、今後、求められる都市のあり方とは何か。そして、今後、日本が進むべき方向とは何か。世界的に活躍する建築家・隈研吾氏を訪ね、「都市デザイン」について聞いた。

文化拠点 歌舞伎座竣工願うは「都市の復活」

谷口 文化の象徴とも言える歌舞伎座が竣工しました。歌舞伎座に込めた思いをお聞かせください。

 まず、都市の歴史を振り返ってみたいと思います。都市を構成する建築物は、もともと祝祭空間、宗教空間、政治空間などコミュニティを束ねる役割を担っていました。しかし、20世紀以降は、都市の工業化が進展していきました。その変遷の中、工業都市が誕生しました。それはまるで、機械が都市の中に設置されているかのような都市空間です。つまり、都市は人が生活を営む場所ではなくなり、工業生産の場となっていったのです。

しかし、その幻覚に惑わされながら、20世紀の建築家は、機械仕掛けの建築を賞賛し、住宅の機械化を進展させました。それらが集中した姿が、今ある都市です。20世紀に人間の長い歴史の中で築かれてきた建築文化が一気に崩れました。しかし、21世紀の今、工業化社会から脱却し、再び社会構造の転換期にあります。

そういった社会的背景を踏まえて、歌舞伎座の建築に取り掛かりました。4月2日が杮落としです。この歌舞伎座の原形は芝居小屋です。それと同時に、パリのオペラ座にも共通する文化的な位置付けがあります。建築の機械化が進展する以前の建築の集大成として鎮座するオペラ座は、シンボリズムと祝祭性を兼ね合わせています。明治時代の頃、東京を訪れる欧米人に東京を楽しんでもらおうと、歌舞伎の人達が話し合って、歌舞伎座が建設されました。今回、5代目となる歌舞伎座に込めた意味合いは、明治22年に竣工した初代歌舞伎座に託された祝祭空間の復活、都市の復活を願ったものです。

谷口 歌舞伎座の竣工は、都市の高いエンターテインメント性を実現しました。訪問に値する都市創造が実現すれば、歌舞伎座もオペラ座のように都市の魅力として、ダイレクトにつながっていきます。

 歌舞伎座はロケーション的に見ても、銀座の中心軸にあります。オペラ座は、パリの大通りが交差する結節点にあって、それが商業、文化のコアとなり、パリという都市空間を形成しています。歌舞伎座はきわめて類似した関係にあるといえます。

「小ささ」を愛でる文化

人間を基準にしたまちづくり

谷口 日本では、江戸時代のゆとりある暮らしに回帰していこうという潮流があります。その象徴的な仕事を建築で表現されていると思います。特に最近、「小さな建築」という本を出されました。そこで示そうとされたのはどういう考えなのでしょうか。

 都市を生活の場に回帰させたとき、20世紀の工業化社会の都市と一番違うのは何か。それは機械ではなく、人間がすべての基準になっているところです。19世紀までは、人間を基準にして、街路からシンボリズムまでを構想してきました。20世紀の都市づくりでは、工業のパワーをシンボリックに表現しようとして、超高層ビルや大規模建築を追求してきました。拡大志向の都市といえると思います。しかし、人間を基準にした、建築の原点に回帰していくものとすれば、これからの都市は人間のサイズ、すなわち、「小ささ」が求められていきます。そういった考えを、『小さな建築』としてまとめました。

谷口 小ささを表す潮流として、今のライフスタイルの中に、シェアハウスという概念が生まれてきました。これは、小さいが故に、助けられるサイズという捉え方もできます。そのコミュニティのサイズから、丁寧というものが生み出されるのでしょう。本当の快適さとは何なのか。今の都市開発を見ていても、工業化の名残りから、規模を争う新興国的な発想が多く見受けられます。東京も小さな都市の集合体として見ていくことが必要だと思います。

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 僕が小ささという部分に気がついたのは、中国で仕事をしてからになります。中国で依頼されるプロジェクトがあまりにもスケールが大きく、そしてスピードも、東京とは桁違いでした。彼らと同じ思考法で、勝負しても惨めな負け方をするのではないか、と思ったのです。それで、逆に日本人が勝負できるところはなんだろうかと考えました。その答えは、京都にありました。歴史都市といえば、中国にも長安や洛陽がありました。しかし、中国にはそういった京都のような都市はありません。あの空間を守って、そこで住み続ける能力が日本人にはあります。京都にある魅力は緻密さです。今、日本は中国やシンガポールなどの新興国から置き去りにされていますが、この「小ささ」を駆使すれば、日本が逆転することもありえるのではないかと思っています。

谷口 今、中国の他には、どこからの依頼が多いですか。

 注文先としてはヨーロッパと東南アジア、やはり中国が多いですね。特にヨーロッパは、どちらかというとパリやロンドンといった大都市からではなく、マルセイユやエクス=アン=プロヴァンスなど地方都市からの依頼が多く、そこに残る文化で、他の都市と勝負していこうと動いている人達から依頼が来ます。

僕たちが、その土地のキャラクター性を引き上げることを得意としていることを知ってか、素材も現地のものを使って、伝統に沿ったものを造ってくれ、という依頼が多くあります。こういった考え方を持っているのは、ヨーロッパ各国の主要都市から少し離れた地域によく見られる傾向です。地方には、反パリ、反ロンドンの考え方を持った人が多く、僕の考え方と近いから仕事もやりやすいですね。

拡大一辺倒の中国でも、中国文化に敬意を持って依頼してくる人とは仕事がはかどります。タイでも、インドネシアでも、同じ思考法を持っている人たちがアジアでも増えていて、将来はすごく頼もしい感じがします。

地方にアドバンテージ

過疎に守られた独自文化で世界都市へ

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谷口 工業化の波から脱却し、小さくても光る個性が求められる社会へ大きくシフトしている感じを受けます。そして、その存在の独自性は足元にある歴史や自然というところにあり、それが個性となっています。それをうまく持ち上げていけば、世界都市になれるといえるのでしょうか。

 都市の周辺に住む人は、そこにアドバンテージがあるといえると思います。個性が確立しやすいのです。それには、どういうものを利用するかが重要ですね。僕のところに来る依頼も、新築というよりもリノベーション的なプロジェクトが多くあります。現存する倉庫や橋梁を生かして、再生させていくという依頼です。

一世代前の建築家であれば、一旦、土地を更地にして、建物を造り上げていくことでしょう。しかし、僕は逆に初めからモノがあったほうが面白いと感じます。建物を保存し、それを再利用して、もともとそこに存在した個性を生かした建築物に仕上げていきます。地方の小さな都市ほど独特の文化が色濃く残っています。

谷口 すでにある力を活用するという発想ですね。今、日本は高齢社会です。増加し続けるコストとリスクばかりを言って高齢者が多いことを嘆きの対象とするのではなく、経験豊富な人材が大勢いるという発想へ転換していかないと、新しい時代へのチャンスに変えられない。そういった課題が山積する日本の現状をどうお考えですか。

 日本はかなり敗北意識が強いと思います。このままではアジアにも勝てないまま、世界を牽引するものづくりの分野においても負けてしまうのではと危惧しています。

中国のIT企業からの依頼で、ECサイトを運営するアリババの子会社タオバオから、本社ビル建築の依頼を受けました。彼らを見ていると、拡大する経済だけではなく、文化にも目が向いているように感じました。例えば、アリババのオーナーで中国ではカリスマ的経営者として尊敬されているジャック・マーは、中国史が大好きで、自分の社員たちに歴史上の人物の名前をつけてみんな遊んでいます。自ら中国文化の中に溶け込もうとする行為です。

その点、日本も歴史や文化に焦点を当てれば、ポテンシャルは高いと思います。むしろ、日本のほうにアドバンテージがあるはずです。日本の地方には、まだまだ多様性が残っているからです。中国や韓国では、地方文化や職人文化が、かなり破壊されています。

日本の地方は発展が遅れた分、そのままの状態で守られているともいえます。これが宝なのです。日本の地方は、東京優先主義のせいか、自分のよさを自己否定していて、もったいないと思いますね。もう一度、自信を取り戻して、場所の固有性、歴史の深さを掘り起こすことをしていかないといけません。

谷口 日本では、よく周囲を海に囲まれた島国であることを揶揄してガラパゴスと呼びます。しかし、それは逆に特徴が残っているとも受け止められます。世界との違いが示せる文化を多く蓄えていることに気が付いていない。これが日本だ。世界は、もう一度、その土地独自の特徴を見直していく流れにあります。これが「小さな建築」とつながるわけですね。

 そうですね。建築は、小さいものであればあるほど、その環境とうまく溶け込みやすい。一方、大きい建築だと空間を分断してしまいます。日本に様々な文化的特徴が色濃く残っているのは、日本の文化が小さいものが集約して組み合わさり、構成されているからだと思います。これは逆に、日本は大きいことに対する危険性を認識し、本能的に避けていたようにも見て取れます。

谷口 これは日本の将来に対して、勇気の出る着眼となります。成長戦略となると、量の話が多い。長く続いてきたのは、むしろ小さなものです。京都には蕎麦屋があります。それがたった一店だけであっても何代も受け継がれてきました。一方で、店舗数を拡大すれば、返って途切れやすい傾向にあります。

 
(Life Design Journal vol.2 2013年4月25日号掲載記事転載)

隈研吾(くま・けんご)

隈研吾建築都市設計事務所 主宰

1954年横浜生まれ。1979年東京大学大学院工学部建築学科修了。1990年隈研吾建築都市設計事務所設立、主宰となる。1998年にコロンビア大学大学院建築・都市計画学科講師、2001年から慶應義塾大学理工学部教授を務めた後、2009年から現在まで東京大学教授を務める。主な作品に、1997年に日本建築学会賞を受賞した「森舞台/宮城県登米町伝統芸能伝承館」のほか、2013年4月に竣工した歌舞伎座などがある。

谷口正和(たにぐちまさかず)

マーケティング・コンサルタント、株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長

1942年京都生まれ。京都鴨沂高校を経て武蔵野美術大学造形学部産業デザイン学科卒業。生命、生活、人生の在り方を問う「ライフデザイン」を企業理念そのものとし、地球と個人の時代を見据えて常に次なる価値観のニューモデルを提示し続ける。コンセプト・プロデュースから経営コンサルテーション、企業戦略立案、地域活性計画まで幅広く活動。時代を週単位で分析し続けている週刊「IMAGINAS(イマジナス)」はウィークリー情報分析誌の草分け的存在。会員制ワークショップとして、21世紀の新マーケット・パラダイム『文化経済』市場の商業、観光、産業の経営を学ぶ「文化経済研究会」を主宰。 日本デザインコンサルタント協会・副代表理事、日本デザイン機構・理事、日本Webソリューションデザイン協会・顧問、京都文化観光創造塾・座長等を務める。

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