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GKデザイングループ会長 榮久庵憲司 × 谷口 正和 スペシャル対談「ライフデザインの未来構想」

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榮久庵憲司(えくあん けんじ)

1929年東京生まれ。1955年東京藝術大学美術学部卒業。1957年GKインダストリアルデザイン研究所設立、所長となる。1973年第8回世界インダストリアルデザイン会議実行委員長。1989年世界デザイン博覧会総合プロデューサー等を務める。現在、GKデザイングループ会長。主な作品に、キッコーマンしょうゆ卓上びん、ヤマハオートバイ、成田エクスプレス、秋田新幹線“こまち”など。

デザイナーのきっかけは、
あるべきはずのものがない「不自然」

01
※このインタビューは2012年9月に行われたものです。

谷口 栄久庵先生とインダストリアルデザインの出会いについて、お伺いさせてください。

栄久庵 第二次大戦中は、海兵隊員として従軍していました。8月15日に敗戦を迎え、故郷の広島駅に降り立った時、衝撃を受けました。目の前には、家が一切なく、見渡す限り焼け野原で、瀬戸内海には月の光が照らされていた。あるべきはずのものがないのです。そのあるべきはずのものがない、この不自然さがどうしても拭えませんでした。何もないジャングルに一歩足を踏み込めば、ピース缶一つでも落ちているとほっとします。あるべきはずの形に対する欲求が、デザイナーの道を選んだきっかけとなります。その荒涼で殺伐とした光景には、私のみならず、誰もが何らかの違和感を覚えたことではないでしょうか。デザインは、自分のためでもあれば、他人のためにも成り得ます。一度は、父の跡を継いで僧侶になろうと決意していましたが、東京藝術大学に進学しなおしました。当時、昭和25年の話です。東京に出てきてからは、民主主義という言葉と出合いました。人の平等を説いた言葉がインダストリアルデザインとイデオロギーの部分で合致しました。誰もが美しい形状をした商品が買えるというデモクラシーです。その時、私は「美の民主化」という理念を持つように至りました。

谷口 「美の民主化」というコンセプトは当時としては、革新的だったのではないでしょうか。そうして自己を形成してこられたからには、デザインの道は選ばざるを得ない、まさに運命だったように思います。そして、GKデザインを立ち上げられた。

栄久庵 小池岩太郎先生に集ったアルバイト集団(Group of Koike)が始まりです。昭和32年に有限会社として設立しましたから、もうかれこれ、60年が過ぎようとしています。

谷口 この60年の間に多くの作品を世に排出されてきました。代表作のしょう油指しをはじめ、自転車やバイク、鉄道など数多くの工業デザインに取り組まれ、世界をまたに駆けるデザイン事務所として大成されました。なおもまた、更なる向上を目指されて、栄久庵塾を開校される。本当に身の引き締まる思いです。

041961年の誕生以来、様々な国の食卓におかれるロングセラーです。それまでの一升瓶から、工場出荷されたままの姿で家庭の食卓に至るという流通上画期的な商品となりました。手になじみ注ぎやすい、尻もれがしない、中が見えるなどのしょう油差し容器の必須機能をかなえています。

栄久庵 塾を開校する一番の目的は、日本社会全体が気落ちして、マンネリ化している現状をもう一度奮い立たせるためです。いろんな知識を広めて、デザインの切り口をたくさん増やしていく。デザインの教科書には一つの切り口しか載っていません。もっともデザインを啓発しなければならない教科書が啓発になっていない。デザインは、宗教であっても哲学であっても、何がしか新しい観念を得ることで、同じものであっても、これまでとは全く違う見え方ができるようになります。すると、自ずと違った切り口でデザインを考えることができます。そういう場として、栄久庵塾が機能すればいいですね。

02

1億人の直感
誇りを取り戻すデザイン

谷口 デザイナーには多くの切り口を持っていることが必要だと説かれていますが、今、栄久庵先生が思い描かれている「未来のデザイン」についてお伺いさせてください。

栄久庵 日本文化として、よく語られるのが、武士道です。それは日本人の根底にある感性で、武士道とは誇りを持つことです。日本が先の大戦での敗戦から経済成長を遂げ、立ち直ることができたのは、戦前より培われてきた日本人の誇りによるものだと思います。そうして、これまでは誇りをもってデザインしてきました。しかし、現在は誇りを失った寂寥感が、日本全体を包み込んでいるように思えます。諸外国との関係において、誇りを表す機会はたくさんあります。しかし、どれもわびしい結果となっているのが現状です。今はこの状況をどうやって覆すのか、という視点でデザインを考えています。物のフォルムや色彩を目にすることで、デザインをもって誇りを回復できるようにしたい。日本人が失いつつある誇りが取り戻せるデザインこそ、究極のデザインです。そうして、再び誇りを持った1億人の直感が働いたデザインが生み出される。ここまでをデザインしていきたいですね。

谷口 デザインという目に見えるものが、見えざるものを創り上げていく。それが大きな土壌として機能していく。そこで育った日本人としての誇りが、われわれを再び突き動かしていくという循環こそ、「未来のデザイン」ということですね。

栄久庵 おっしゃられるとおりです。日本の伝統文化は、過去の遺物ではなく、未来に生きていきます。伝統文化にはデザインの世界でまだ手が付けられていない領域があります。例えば、「さっぱり」 という感覚。「さっぱり」というのは、神道の世界観を表しています。これは日本の美学として存在している。神道の格好を見ると、みそぎの姿で、とても簡素です。まさに日本人らしいスタイルですね。この造形が、例えば、電化製品に活かされ、家電として定着していく。すると、人間もそれに影響を受けて、神道に漂う品格までも身に付けられるのではないかと思います。

谷口 神道は無に帰するという感覚を帯びています。

栄久庵 「さっぱり」という感覚は独特です。神道は地域社会の代表でしたが、追いやられてしまいました。お祭りとして残っているが、それは過飾が強く、「さっぱり」したものとはいえない。もう一度、神道を宗教というよりも文化として見直してはどうだろうかと思案しています。

03

「時」をデザインする
歳時記という日本の着想

谷口 神道を文化論として見直していく。神道の世界では、式年遷宮という慣わしがありますが、20年を節目として、建物を新しく築き上げてきた。これは、決して供養という意味合いなんかではなく、生まれ変わるという清浄の意味合いがあり、21年目からまた次の遷宮に向けて準備を始めていきます。

栄久庵 日常使っている道具も、節目をもって見直していくことは必要な考え方です。これは浪費ではなく、再生という喜びが含まれています。まるで、歳時記です。歳時記にならって、創造していく。創造環境としては、たいへん興味深い考え方です。確かに、4年に一度開かれるオリンピックも歳時記に位置づけられ、日本人の誇りを喚起させる歳時記として機能している。

谷口 歳時記という日本の着想、これらはまさに、時がデザインの環境を与えています。昔、箸や茶碗も1年単位で新しいものを買って、新品をそろえて正月を迎えていた。元々、歳時記は、四季の事物や行事を記し、生活サイクルとして役立ってきました。

栄久庵 ある時、中国人の男性から、息子を日本男児として育てたいという願いを聞いて、日本の慣わしである、端午の節句にちなんで兜をプレゼントしました。すると、立派な日本男児として育った。まさに、道具が日本の誇りを育てたという話です。このように日本人の魂をフォルムに宿していけるデザインを創っていきたいです。そして、将来、そのデザインによって日本の青少年が夢を持てるようにしたいですね。

谷口 夢を持てるデザイン、夢を感じさせるデザイン。栄久庵先生は、未来のデザインとは生活者の傍にずっと寄り添っているものだと見定めておられます。弊社のコンセプト「ライフデザイン」も、先生のおかげでいつもとは違った見方ができました。本日はたいへん興味深い話をお伺いすることができ、誠にありがとうございました。

 
(Life Design Journal vol.1 2012年10月1日号掲載記事転載)

谷口正和(たにぐちまさかず)

マーケティング・コンサルタント、株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長

1942年京都生まれ。京都鴨沂高校を経て武蔵野美術大学造形学部産業デザイン学科卒業。生命、生活、人生の在り方を問う「ライフデザイン」を企業理念そのものとし、地球と個人の時代を見据えて常に次なる価値観のニューモデルを提示し続ける。コンセプト・プロデュースから経営コンサルテーション、企業戦略立案、地域活性計画まで幅広く活動。時代を週単位で分析し続けている週刊「IMAGINAS(イマジナス)」はウィークリー情報分析誌の草分け的存在。会員制ワークショップとして、21世紀の新マーケット・パラダイム『文化経済』市場の商業、観光、産業の経営を学ぶ「文化経済研究会」を主宰。
日本デザインコンサルタント協会・副代表理事、日本デザイン機構・理事、日本Webソリューションデザイン協会・顧問、京都文化観光創造塾・座長等を務める。

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