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スローレーベル ディレクター 栗栖 良依さんインタビュー「出会いが生んだ 次世代のもの作り スローマニュファクチャリングの可能性 」

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福祉施設や企業とアーティストをつなげ、自由なもの作りを行なう「スローマニュファクチャリング」をテーマに活動するスローレーベル。近年は現代アート国際展「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」を企画するなど活躍が目覚ましい。団体のディレクターを務める彼女に、新しいもの作りの可能性や未来について聞いた。

どこにも属さないからこそ
あらゆるものを繋げられる

―新しい視点の働きかたをされていますが、きっかけはありましたか。
 スローレーベルでディレクターとして活動する前は、特定の分野や業界に属さず、肩書きにもこだわらない働きかたでキャリアを積んできました。ディレクターとして働く今も、明確な線引きはせずに、さまざまなことをやっています。フリーランスという働きかただからこそ、出会うことのない人と人、文化や地域などを結ぶことができると思っています。国籍やジェンダー、年齢を超えて、新しいものや世の中にない価値を創造できることは、「無色透明」をコンセプトに働くスタイルだからこそですね。2010年に右膝にがんを発症したことは、たしかに自分の人生をリセットするような大きな変化ではありましたが、だからと言ってスローレーベルを始めたわけではないんです。病気を発症したことで「障がい」というキーワードに出会い、そんなときたまたま声を掛けられてディレクターに就任した、そんな偶然がきっかけなんです。

―スローレーベル×福祉施設のプロジェクトのきっかけは何ですか。
 それも偶然です。最初は企業や職人と一緒にもの作りを進めようと動いていたものの、福祉施設とたまたま出会い、そこで作ってみたものが面白かったので今につながっているだけです。意識的に福祉施設や障がいのある方々とプロジェクトを行っているわけではないんです。スローレーベルは福祉施設で作られたものを、デザイナーがおしゃれにパッケージして売り出す支援事業ではなく、次世代のもの作りを探求するアートプロジェクトの一環として進めています。障がいのある方々は個性的な方が多く、新しい視点や価値観に出会うことで見知らぬ土地を訪れたときのような衝撃を受け、とてもワクワクしました。私自身、障がい者になって、これまでと同じように生活することが難しくなりましたが、決して不自由になったと悲観してはいないですね。周りに合わせて頑張って生きていく必要はないことに気付き、より自分にフィットする、自然な生きかたができるようになりました。

マスプロダクツでは作れない
次世代のもの作り

―障がいのある方々とのもの作りはどういった点が魅力的ですか。
 現代社会の主流はマスプロダクションで、早く安くと効率重視で作られたものです。福祉施設ではそれはできませんが、逆に一つひとつの色や形を変えて、個性的なものを作り出すことができるんです。スローレーベルでも、どんなものができあがってくるのか、スタッフ同士でワクワクと心待ちにしているくらいです。こういった従来のマスプロダクツとは異なる次世代のもの作りとして、「スローマニュファクチャリング」があってもいいのではないかと考えています。このプロジェクトでは福祉施設の彼らこそ私たちにとってのベストパートナーです。

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障がいのある人々と
出会うきっかけを作りたい

―活動を通して社会に働きかけたいことはありますか。
 単純に障がいのある人とない人が出会うきっかけを作れたらいいな、とは思っています。出会ってもらえれば、一般の人は何かしらの気持ちを抱くと思うんです。それはきっと障がいのある人に対して「かわいそうだな、助けたいな」と思う気持ちではなく、「すごい!」と驚いてしまうような真逆の気持ち。細かな刺しゅうや、神がかった集中力、独特な色使いなど、一人ひとりの個性に出会うことで、きっと気持ちがワクワクと高まるはずです。出会いをきっかけにして友達になってもらえれば、障がいのある方々にも住みやすいまちができるのではないかと思っています。

―住みやすいまちとはどういうことでしょうか。
 住みやすいまちと言うと、すぐに音声ガイドやスロープを設置するといったハードな面に目を向けがちですが、ソフトな面で解決できることもたくさんあると思っています。それは例えば隣にいる人が文字を読み上げたり、状況によっては何人かで協力して移動するのを手伝ったりといった、支援ではない人の優しさがもっと必要なのではないかなと。自分の周りにいる友達に置き換えれば、その行動をとることは難しいことではありません。

働くこと=生きること
2つがリンクする生きかた

―栗栖さん自身は働くことと生きることはリンクしていますか。
 そうですね。私はリンクしています。スローレーベルの活動をしていると、単にお金を稼ぐために働くのではなく、社会の中で働くことで、役割や居場所を持てることが大切なんだなとつくづく感じます。障がいのある人も、ただのリハビリではないプロジェクトとして、自分が作ったもので誰かが喜ぶ体験をすることはこの上なく嬉しいもので、それぞれの生きがいにつながっているようです。役割や居場所を見つけて「働くこと」が充実すれば、「生きること」もより楽しく、充実していくものなんだと実感しています。

―今後の目標について伺ってもよろしいでしょうか。
 2020年の東京パラリンピックの開会式に、一人でも多くの障がいのある人を出演させることです。オリンピックよりも面白い開会式で、多くの人の価値観や障がいのある人への固定観念を覆したいですね。障がいという個性があるからこそ、多様性のある表現ができるはずだと思っています。

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横浜にある象の鼻テラスには、スローレーベルによる個性的な手作りの雑貨が並ぶ。

Text _Saori Otsuka(Japan Life Design Systems
Photo _ Tomoki Hirokawa
 
(Life Design Journal vol.5 2015年4月15日号掲載記事より転載)

栗栖 良依 Kris Yoshie

特定非営利活動法人 スローレーベル | ディレクター

東京都出身、1977年生まれ。東京造形大学に進学後、ミラノのドムスアカデミーに留学してビジネスデザイン修士を取得。2011年、右足に障がいを抱えつつ、横浜ランデヴープロジェクトのディレクターに就任。福祉施設との大量生産ではできないもの作りに魅力を感じ、「スローレーベル」を立ち上げる。

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