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{tabel}代表 食卓研究家 新田 理恵さん インタビュー「薬草文化再考、 その先に見える 健やかな未来」

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生活に気軽に取り入れられる美味しい国産薬草茶をつくり、人々の健やかな暮らしと地域産業、医療の課題解決を図るプロジェクト{tabel}を主宰する新田理恵さんに、これからの食と暮らしへの想いを聞いた。

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暮らしに薬膳を取り入れて、食生活をアップデートする

―薬草に惹かれたきっかけを教えてください。
 元々、大阪の市場にあるパン屋の娘で、食べ物に関する仕事に就くのが当たり前の環境でした。高校生になって進路を考える時期に、ちょうど父が糖尿病になったんです。そこで初めて、食べ物が凶器になるんだ……とショックを受けました。食事は一歩間違えれば身体を壊すものなんだと。それをきっかけに大学で栄養学を学び始めました。しかし、日々の体調の変化や季節の循環など、食の大事な部分を知るほど、西洋の栄養学では賄いきれないことに気が付き、辿りついたのが薬膳。そこから、栄養学と薬膳の良い面を取り食生活をアップデートできないかと考えたんです。

―食生活のアップデートとは具体的にどういうことでしょうか。
 私たちはご飯を選ぶとき、単純に「美味しい」という感覚を重視しがちですが、それは病気を引き起こす可能性も秘めています。そうではなく「身体に良い」「どんな栽培方法で育てられたか?」「農家の方に投資しよう!」など、違った物差しで食材を選ぶことも出来る。そうした意識の積み重ねで、美味しさの価値観を変え、自分の身体と向き合った食生活にシフトしていけると思ったんです。

―伝統茶ブランド{tabel}はどのようにして生まれたのですか。
 薬膳を実践してわかったのは使用材料の9割が外国産で、その内8割が中国産ということ。国産、無農薬の物がなかなか買えない現状があるんです。ただ、日本国内と気候の変わらない中国で収穫できるなら、日本でも……! と九州の蓮根農家さんの所へはすの葉のリサーチへ。元々九州は、薬草産業が色濃く残っている地域。霧島や阿蘇では薬草工場が残っていて、工場の方や在来種の蓮根を作る農家さんとの素敵な出会いもあったんです! 同時に薬草産業が衰退している現状、食材として薬草のハードルが高いことを知り、もっと日本の植物を愛し、作ることを仕事にし、薬草を楽しめるようにしたい! と考え、美味しい国産の和漢茶作りを行う{tabel}を立ち上げました。


医療にたよりすぎない薬草茶の秘めたる可能性

―クラウドファウンディング(インターネットを通じて不特定多数の人や組織から財源の提供や協力を募ること)を利用されているのは何故ですか?
 {tabel}が目指しているのは、日本中で薬草を楽しむムーブメントを起こすこと。私が一人で頑張るというより、なるべく多くの人を巻き込んで、当事者を増やしたかったんです。多かったのは、意外にもお医者さんや介護関係の方からの出資。日々患者さんに薬を沢山だすことに疑問や心配のある方が多く、「美味しい食べ物で身体を健康に出来るならそれが一番いい」といった声を聞けたのも嬉しかったですね。

―医療費の高騰、医者の人手不足など医療の問題があるなかで、薬草茶の可能性をどう考えますか?
 実際、熊本県菊陽町では莫大な医療費が問題になっていました。そこで、老人クラブの人々が目をつけたのが薬草茶。阿蘇に住む先生に教わりながら、薬草茶で身体のメンテナンスをしたり、薬草茶の商品作りを始めるなど、薬草をきっかけに健康を見直す動きが起こり、老人保健医療費が3億円減少した事例があります。また、沖縄などの小さな島では、駐在できるお医者さんがいないため、民間療法として薬草の知識が定着している。自分たちで健康をつくる意識が芽生えているんです。病気のことは難しい……とお医者さんに任せきりにせず、自分たちの出来る範囲を頑張ることはとても大事だと思いますね。


人と人との繋ぎ手となって文化の入口をつくる

―気仙沼で高校生と商品企画をするなど、{tabel}以外にも食に関する活動を様々されていますね。
 食べることって多くの人が自分事として動けますよね。みんな毎日ご飯を食べるし、誰でも作れる。各地域で特色があるし、そこから自分たちの町の良さに気付けることもあり、食という切り口は地域を活性化させる一歩目として良いんです。気仙沼では、i.clubという高校生にイノベーションを教える活動で、商品企画のフードアドバイザーとして参加しています。震災復興を目的として始まったプロジェクトですが、高校生たちが地元の魅力に気付いたり、世代間交流を生みだす取り組みでもある。実際にこの活動をきっかけに、地元の食品会社の商品企画部へ就職した子も出てきました。食の面白さ、大事さに気付いてもらえるよう心掛けていたのでとても嬉しかったです。

―今後{tabel}をどんなプロジェクトにしていきたいですか?
 今、薬草が苦そう、よく分からない、古臭い……とあまり印象が良くないことが勿体ないんです。薬草は科学的に見て身体に良いことを伝え、例えばハーブのように素敵で生活に取り入れやすいものにしたい。それが、栄養学と薬膳を両方学んできた私が出来ることだと思っています。あとは、ローカルで頑張っている素敵な人たちを応援しやすい状況を作りたいですね。薬草を作る同業者の繋がりを生みだしたり、薬草に興味を持った人がどこへ行き、誰を尋ねたらいいかわかる日本地図を作ったり……。薬草文化の入口に{tabel}がなれたらと思うんです。今も全国で、薬草工場の廃業や、摘み手の方々の高齢化など様々な問題を目の当たりにします。文化自体が失われるのではないかという強烈な危機感から、きちんと記録と継承をしたいという想いがどんどん強くなっています。一つの事業として{tabel}を捉えるのではなく、行政や色々な会社を巻き込んで、一緒に日本の薬草文化を再考していきたいですね。

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(左)霧島のカキドオシとハトムギ茶
(右)八代の日本古来のはすの葉茶
生産者と対話を重ねながら作られた国産和漢茶。おなかに優しい、涼しくなるなど体調や気分に合わせてセレクトできる。

Text_Megumi Murayama(Japan Life Design Systems
Photo_Demon Pictures co.,ltd.

新田 理恵 Lyie Nitta

1984年 大阪生まれ。武庫川女子大学食物栄養学科卒業後、フードコーディネーターとしてE•recipeに就職。現場で写真家から撮影を習ったのが昂じて、写真表現大学総合科に入学。その後、薬膳に目覚めて国際中医薬膳調理師資格を取得し、食卓研究家として独立する。2014年、日本の薬草やローカルの魅力を伝えるコミュニティ{tabel}を始動。
http://tab-el.com/

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