3669T

NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長 上野千鶴子 × 谷口 正和 スペシャル対談 「ソーシャル シフト 固定社会から流動社会へ」

印刷する

高度情報社会の到来は、生活者の暮らしに大きな転換をもたらした。それは、これまでの工業主義的で画一化された価値志向から脱却し、多様化する社会への変革を意味する。このソーシャルシフトは、持続可能な社会への扉を開く試金石となるだろう。社会学者上野千鶴子氏との対談によって、この転換がもたらす社会変革の実体に迫った。

多様化する働き方の弊害
女性の社会進出の実体

谷口 上野さんが理事長を務められるウィメンズアクションネットワークについて教えて下さい。

上野 女性をつなぐプラットフォームづくりのためにウェブ事業を始めました。理事長も私で3代目になります。現在、6年目を迎えました。おかげさまで会員数も500人を超え、ボランディアスタッフも100人を越えています。

谷口 具体的にはどのような活動を行っていますか。

上野 マスメディアが扱わない女性のためのコンテンツを発信しています。今は、映像コンテンツに注目しています。去年から、女性の地位向上を目指しパイオニアとして切り開いてきたジェンダー研究者が大学で定年を迎えるにあたり「最終講義」を映像化して、インターネット上で配信しています。最終講義となると、一生に一度しかできないものです。そのため、気合の入り方が違います。時代を切り開いてきた方々の講義は、本当に感動的なものです。

谷口 先人たちが切り開き、今があると思います。女性たちが、今後、社会の牽引者となるためには、どのようにかかわっていけばいいとお考えでしょうか。

上野 安倍首相は、「女性活躍社会」を唱えていますが、男性稼ぎ主型の働き方がネックとなって、実際には女性にはハードルの高い社会です。

谷口 すると、安倍政権が掲げる2020年までに女性管理職30%以上といった、ウーマノミクスに期待はできないということでしょうか。

上野 このままではこれから5年後に「202030」を達成するのはとうてい無理でしょう。一昨年、文藝春秋社から『女たちのサバイバル作戦』という書籍を上梓しました。帯には、「追いつめられても手をとりあえない女たちへ」とあります。実は女性の中でも、正規雇用と非正規雇用とで、二極化が生まれています。また、既婚者と未婚者の違いもあります。いわゆる、「女女格差」という問題です。
 これは働き方だけではなく、少子化の問題とも連動しています。女性の非正規雇用率は60%近く。公益財団法人家計経済研究所が、同じ女性のグループを10年間追跡調査して得た調査結果によると、10年後に正規雇用者と非正規雇用者を比較すると、正規雇用で働く女性たちのほうが結婚、出産ともに確率が高いことがわかりました。これは非正規の女性のほうが、配偶者に求める条件が高いからです。この配偶者への要求水準の高さが晩婚化の要因となっています。逆に正規雇用で暮らしが安定している人ほど、早く結婚し出産する傾向があります。この調査結果が明らかになっているにもかかわらず、国の施策では、労働条件の改善が見られるどころか、生涯派遣社員を固定しようと動いています。

3669A

ベンチャー企業の内情
生きるための技能獲得に

谷口 一方、女性はお客様の立場でサービスを考案する知恵を持っています。そのアイデアをもって、ベンチャー企業を立ち上げられたりされています。

上野 ベンチャーとは、「冒険」という意味です。これは、安定とは正反対の言葉です。社会学者の古市憲寿さんが、若者ベンチャーの研究を行っています。日本は、起業家の育成に力を注いでいますが、実際は増えていないそうです。しかも、誰がベンチャーに参入しているかといえば、労働市場で不利な立場にある人々がほとんどです。旧帝大系や有名私大などの一流大学の出身者は、労働市場におけるハイパフォーマーですから、安定した雇用があるため、起業するインセンティブを持っていないのです。
 起業家になる人は、結局、誰も雇ってくれないから起業しているのです。たとえ、就職しても女性の場合、出産育児をかかえていれば、企業の総合職として働き続けることは難しいでしょう。すると、企業で働き続けることを諦めて、自ら起業の道を選ばざるを得ません。また介護系では中高年の女性の起業が増えていますが、それも年齢と性別の壁に阻まれて雇用が得られないからです。まさに起死回生の策で、国が旗振り役になっていても、起業家の数が増えないのが実態だといえます。

谷口 しかし、終身雇用制の崩壊など大手企業に身を置くからといっても、絶対安全とは言い切れません。むしろ、それぞれが人生をかけて、どういうふうに生きていくのか。その共通認識があれば、起業もいい流れが出てくると思います。

上野 まさにサバイバルですね。総合職女性は疲れきっています。結婚しても、仕事をしながら出産や育児を両立させることは大変困難です。私は世の中を生き抜くための戦略として、「ひとりダイバーシティ」を提案していますが、企業に依存しないでマルチプルなインカムソースを確保して生きるという柔軟な生き方です。世帯であれ、個人であれ、リスク分散していく必要があります。

谷口 しかし、逆に一流大学出身者の場合、ベンチャーを起こす資質は低いと見ています。

上野 そうですね。大企業の正社員という椅子取りゲームで勝ち残った人材はかえって情報生産性が低いかもしれません。今の企業の採用人事を見ていると、安心できる人材を雇用しているように思えます。これではイノベーションは起こしにくいでしょう。そして、起業意欲の高いハイパフォーマーたちは日本ではなく、外国へ出ています。

谷口 上野さんは、大学でも教鞭をとられていました。若者と直接かかわってこられて、実際にどのような印象をお持ちですか。

上野 東大という日本のトップブランドの大学ですら、選抜方法とカリキュラムを見ていて、これでは情報生産性の高い人材は育たないと思いました。今の日本の教育システムには、正解主義や同調圧力が強く働いています。高等教育のみならず、初等教育、中等教育に遡ってみても、変化の芽は見えてきません。

谷口 それが日本における最大のリスクだと思います。すでに生活者自身も、課題認識をもっていることでしょう。しかし、変わらないままのエリートの集団が日本社会を作り上げています。いつかどこかで破裂するのではないかと危惧しています。

上野 その通りだと思います。2000年代に入ってから、中学、高校の先生の話を聞くのが怖くなりました。学級崩壊などの状況が何年かしたらそのまま大学まで持ち上がってくるからです。一方で、出口となる就職先や採用方法も変わろうとしていないことも問題です。

ダイバーシティの幻想
変えられない社会の構造

 
谷口 ダイバーシティと格差、これをどのように思いますか。

上野 企業はダイバーシティを本気で取り入れる気があるのかはなはだ疑問です。逆に谷口さんは、ダイバーシティという流れが利益に直結するものだとお考えですか。

谷口 ダイバーシティという言葉は、資本主義の流れとは逆行しています。資本主義社会では、いかに低コストでモノを大量に生産して販売し、利益を出すかという構造です。一転、ダイバーシティの論理は、すべてオーダーメードするようなものです。ダイレクトに多様性が利益につながるかというと、必ずしもそうではないと思います。しかし、今のご時勢、同じモノが集中的に売れるかといえば、そういう時代ではないことは確かです。

上野 一世風靡型のマーケットは、大きなテクノロジーの革新がない限り、起こらないでしょう。グローバルマーケットとは、ローカルマーケットの集積です。そしてローカルマーケットは差異の集合体です。結局、差異の集合であるローカルマーケットに適応する人材が求められるということになります。つまり、餅は餅屋が売る。マーケットの多様性に対応した人材の多様性が企業にも求められると思います。
 興味深い話がありまして、同志社大学のエコノミスト川口章さんの『ジェンダー経済格差』(勁草書房)では、女性差別をしている差別均衡型企業と、女性を積極的に登用している平等均衡型企業を比較した調査結果について触れられていました。すると、売上高経常利益率が平等型、つまり、ダイバーシティを取り入れた企業のほうが高くなるという調査結果が出ました。すると、経済合理性からいえば、差別型から平等型に移行すればいい。しかし、川口さんは移行は起きないとしています。なぜなら、差別型企業は差別型で均衡がとれているので、移行する理由が生まれないのです。新卒一括採用や年功序列などのシステムができあがり、それがうまくシステムとして機能している以上、あえて内部改革を行う動機付けが生まれてこないのです。これを聞くとがっかりします。

谷口 経営のメソッドとして合理主義は、一つの軸となるものでした。しかし、昨今、企業は規模拡大より、経営者自身の好みを第一義とする考え方も広がりつつあります。

上野 谷口さんには感性マーケットや、GDP志向型から幸福度を追及するGNH(国民総幸福量)志向など積年の思いがあり、お考えには共感します。しかし、残念ながら、その方向への変化は感じられません。バブル期には、物質主義から精神主義への転換が起きるかと予測した人達もいましたが、結局は拝金主義へと突き進んでいき、さらにバブルがはじければ、精神的価値どころか生活最優先となった。そしてアベノミクスは、再び成長志向を目指しています。これが現実です。

谷口 たとえ、事業規模は小さくても生涯を通して取り組むことが必要だと思っています。2020年、アスリートである領域を越えた人が評価されています。そして、普通の平均的な人よりも何倍も収益を上げている。評価が社会化されることで、ニュース、社会に対する自己表現へと広がっていきます。

上野 それではまるで、「何事にも一流になれ」と聴こえますよ。そんな必要はないのではありませんか。

谷口 確かにそうかもしれませんが、何事にも差異があって、果敢に手をあげていないといけない社会であることは間違いないと思っています。

3669B

中道保守の台頭
変革を生み出す
バイタリティ

谷口 変革を生み出すためには、自ら行動に移していくことが求められると思います。これまで第一線で時代の牽引役として突き進んでこられた上野さんにとって、今の日本社会に変化は見られますか。

上野 日本は本当に変わりにくい社会です。なまじ過去の成功体験があるから、変化を拒みます。グローバルな環境が変わってきているのに、日本が変わらないままでいると衰退しかありません。中学生や高校生向けの講演では、「日本は泥舟だ」といいます。3・11によって国土を汚染したオトナたちが、どの面下げて、キミたちに日本の未来を背負ってほしいなどと言えるでしょうか。沈みかけた船から小動物は先に逃げ出します。若者には、世界のどこでもいいから、生きのびてくれと伝えています。

谷口 覆水盆に返らずという言葉を知らないのか、あの体験学習をしながらも変わろうとしていません。すでに歴史上、学んでいるはずです。

上野 「体験学習」とはいい言葉ですね。

谷口 その経験をなかったことにするのは、結局、学ばなかったということです。次の行動モデルを見据えて、今の時代を生きるべきです。今、みんな賢いですから、意見を発することを避け、できるだけフラットなスタンスでいようとする。

上野 現状維持を保守と呼んでいます。全体の軸が右によると、中間的な意見であっても左に見えてしまいます。若手の知識人は自称保守主義者などといいますが、保守を名乗るのは、われわれの世代にとっては恥ずべきことでした。最大野党の民主党ですら、中道保守を掲げています。もはや全体が右寄りになってしまいました。若者は異議申し立てするものだったのに、保守化するとは若者のコンセプトが変わったのかと訝ります。
 最近の若者をポジティブに捉えると、欲の無さです。超高齢社会の今、社会保障費は膨大に膨れ上がりました。しかし、納税者となる若者は、親にパラサイト化し前倒しで年金生活の恩恵を受けているともいえます。欲がなく、ガッツもない、エネルギッシュではない、この穏やかさがよいところなのかもしれません。まさに低成長時代にふさわしいメンタリティを備えているのかもしれません。

谷口 余剰をもたない。コンビニでアルバイトをしていれば十分に生きていけます。

上野 今の学生はデートをしても、週末、一緒にスーパーに行って料理をつくり、DVDを見てまったりと過ごすそうで、まるで老夫婦です。

谷口 日本は中間というところが、膨張していく。先鋭的で高感度な男性は、女性の雑誌を購読しているそうです。

上野 ジェンダー越境が起きています。トマ・ピケティも格差の拡大と二極化の流れを示唆しています。日本でもその二極化が見られます。今後、人口減少が進み、日本は衰退していくことでしょう。社会のギア・チェンジをすることで、低成長社会へ軟着陸すればよいのです。成長の夢をもう一度なんて妄想からは覚めたほうがよいでしょう。

固定から流動へ
心かようシニア社会の到来

谷口 この風潮をポジティブに捉えると、このまったり感が新しい豊かさの根源となるのかもしれません。

上野 私は、15年前から高齢社会を研究テーマとしています。15年前は介護保険が始まった年で、私が50代に入った時です。そのため、実感がありました。考えてみれば、子どもも孫もいないわたしのような「おひとりさま」は、同世代では超少数派だったのに、「おひとりさま」が多数派になってきました。時代が私に追いついてきたと思っています。
 今の日本は、目の前の短期的な利益だけで動いているようです。何十年も前からモノから心の時代へといわれてきましたが、なかなか変化が起こりませんでした。しかし、今、ようやくその転機がきたと思います。マクロ現象は、ミクロ現象の集積です。その典型が人口現象です。個人の選択の集積が人口の増減につながります。そこで大きな変化が起きたのは、超高齢化です。これはすぐには死ねない社会を意味しています。生涯現役でいるためには、早いうちに死ぬしかありません。こんなに長い老後を過ごすことは歴史上かつてありませんでした。加齢は、誰にも例外なく起きます。加齢すれば全員が弱者になります。これが大きな転機となるでしょう。
 たとえ地位や名声、権力があっても、長生きすればいつかは、要介護の立場に自分も立つことになります。そこに立てば、やはり支えてくれるのは人です。それを「人持ち」と呼んでいます。そこでようやく、心の時代となるのではないでしょうか。

谷口 近隣とのゆるいつながりが求められます。いわばリレーションシップですね。

上野 別に隣近所と仲良くしなくてもいい。少し離れた人たちと互いに選んで支えあう関係をつくればよいのです。自分の住む場所で支えあって老いていければ、介護施設にも病院にも行かなくていい。都市部には、地域に介護や医療資源もあります。

谷口 近所で助け合うという地域家族の構造ですね。世帯構成が変わりました。

上野 「おひとりさま」だと「おさびしいでしょう」と反応が返ってきますが、大きなお世話です。周りの支えがあれば、一人で死んでも「孤独死」と呼ばれたくない。ですから、私は「在宅ひとり死」という言葉を使っています。介護施設に調査に行くと、将来、きっと私もこんなふうに老いていくのだろうなと思うことが多いです。だから、要介護状態になっても機嫌よく過ごせればいいと思っています。谷口さんもがんばりすぎず、まったりとした高齢者になってください。

谷口 人は高齢になると丸くなるといいますが、高齢社会となった日本そのものが丸くなってきたのかもしれません。いずれ、私もそのうちの一人になっていくのでしょう。本日は、ありがとうございました。

(Life Design Journal vol.6 2015年4月15日号掲載記事転載)

上野 千鶴子(うえのちづこ)

社会学者・立命館大学特別招聘教授・東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長

1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了、平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部客員研究員、京都精華大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授(社会学)、1995年から2011年3月まで、東京大学大学院人文社会系研究科教授。2011年4月から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門は女性学、ジェンダー研究。この分野のパイオニアであり、指導的な理論家のひとり。高齢者の介護問題にも関わっている。近刊に『何を怖れる』(岩波書店・共著)、『老い方上手』(WAVE出版・共著)。
http://wan.or.jp/

谷口正和(たにぐちまさかず)

マーケティング・コンサルタント、株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長

1942年京都生まれ。京都鴨沂高校を経て武蔵野美術大学造形学部産業デザイン学科卒業。生命、生活、人生の在り方を問う「ライフデザイン」を企業理念そのものとし、地球と個人の時代を見据えて常に次なる価値観のニューモデルを提示し続ける。コンセプト・プロデュースから経営コンサルテーション、企業戦略立案、地域活性計画まで幅広く活動。時代を週単位で分析し続けている週刊「IMAGINAS(イマジナス)」はウィークリー情報分析誌の草分け的存在。会員制ワークショップとして、21世紀の新マーケット・パラダイム『文化経済』市場の商業、観光、産業の経営を学ぶ「文化経済研究会」を主宰。 日本デザインコンサルタント協会・副代表理事、日本デザイン機構・理事、日本Webソリューションデザイン協会・顧問、京都文化観光創造塾・座長等を務める。

この記事をシェアする。

LIFE DESIGN JOURNAL MAIL SERVICEは、タイムリーな情報満載のメールマガジンのお届け、さらに購読者限定のスペシャルプレゼントや、イベント・セミナーへのご招待など様々な特典を提供するサービスプログラムです。メールアドレスの入力のみで登録が可能です。

プライバシーポリシー に同意して、