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株式会社センプレデザイン 代表取締役 田村 昌紀さん インタビュー「商品に込められた価値観との対話が個性となる」

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都内で5店舗を構えるライフスタイルショップ「SEMPRE」。センプレの世界観を感じてもらうことは、「お客様との対話」と話す株式会社センプレデザイン代表取締役の田村昌紀氏に物が織り成す世界観について聞いた。

―デザインの道を選ばれた理由をお伺いさせて下さい。

 学生時代から、当然ながら得意なことをしたいと思っていました。絵を描いたり、物を作ったりすることが好きでしたし、勉学よりもそちらのほうが好きだったというのが正直なところです。そこからデザインの物を作ることが好きという方向に焦点を当てていき、武蔵野美術大学の工業デザイン科に入学しました。だから、あまり深い意味があったわけでもなく、単純に物が好きで、作ることが好きだということからスタートしました。
 工業デザインは物をデザインします。しかし、物のデザインは単なるきっかけであって、そこから、なぜこれを作るのかという根本的なところから考えていきます。そして、人がどのように使用するのかを想像し、造形して商品を流通させて実際に人が使用するところまで考えていきます。つまり、人が一つの物を使用することは、一つの物を作るだけではなく、おのずとその周辺にまで派生していきます。当然、最初から軌道に乗って商品が流通するわけもなく、うまく流れるために環境を整える必要があります。

―アメリカミシガン州クランブルッグアカデミーオブアートに留学なさっていますね。

 日本では、図面の描き方、絵の描き方など表現する技術を学ぶことができます。そういう意味ではそこは学んだというよりも、個々のクリエーターたちとものづくりについて考える場だったといえます。少人数でアーキテクチャーやペインターなど各分野のプロフェッショナルが工房に集まり、コンセプトを考えながら制作するという場所でした。だから、物のフォルムとしてのデザインを考えるのではなく、何に価値観を置くかということを考えていました。工業化社会の中、一歯車としてではなく、商品の個性そのものに対して考えることを身をもって経験できたのは刺激になりました。
 社会に出て商品を作るということは現場で学んでいくことが一番です。むしろ、ものづくりをする上で何を考えて作るかというプロセスが重要なことですよね。まだ経験の浅い学生でしたから頭の柔らかい時にものづくりそのものに対する議論を交わす。技術を学ぶというよりも発想力、想像力を磨くことができたと思っています。

―日本でいうデザインという枠組みから脱却したわけですね。

 一つの課題をもとに検討を重ねていけば、末広がりにあらゆる分野にまで関係していきます。我々の時代は、まだデザインという業態が確立されていなくて試行錯誤の中、物の流れを作り上げていきました。
 例えば、暮らしにおける一つの課題を解決するにしても、そこを出発点として大きく広がっていきます。今、人の暮らしをテーマにライフスタイルショップをやっていますが、物を作ったり、流通したり、表現したりすることにまで関係してくるのです。
 何かを解決する時には必ず周囲へと派生していき、業態という枠組みを超えて広がっていくことは必然だったのではないかと思います。

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―センプレデザインというライフスタイルショップは、それらを集約したものになるのですね。

 暮らしにおけるテーマは、ファッションやカーデザインなど多岐にわたります。しかし、私自身のテーマは暮らしに必要な物を作り出すことを軸にしています。そのため、私なりの編集をした商品を市場に流すこと自体がデザインだと思っています。デザインの範疇も物を作ること以上にどのように表現するか、そしてどう販売していくかという仕組みを構築することを念頭において動いています。
 すると、暮らしにバランスができてきて、一つひとつの価値観に広がりが生まれ、きっとそういう物を使って暮らしていくことが豊かさを育むのだと思っています。そこには、一つひとつの付加価値や、その商品に込められた職人の思いが宿っていることでしょう。その背景まで見て行くことが重要だと認識しています。そして生活空間の中に、ある種の価値観を構築していくはずです。それが、存在しているのとしていないのとでは全く違う感性が身につくものだと思っています。
 特に日本の場合、効率重視で小売店は薄利多売で流通させるばかりに比重を置いてしまい、デザインを軽視してしまっています。それがヨーロッパの場合、運営している人の主義主張や思いが強く、それぞれの店舗に個性があります。

―物が空間を作り上げ、さらには個人の人格まで形作っていくということですね。

 暮らしに必要な物はあって当然です。しかし、どのような商品であっても作り手の姿が見える商品には親しみが感じられます。全身全霊を込めて作られた商品からは職人の人柄までが見えてきます。それは商品が持つ機能面だけではなく、購入した者の好みまでもはっきりと投影してくるはずです。その好みの連続が個人の世界観となり、個性として表出することでしょう。そして、物の好き嫌いは、生活空間を形作っていきます。
 例えば、四角い敷地と変形した敷地では不動産業者は道に面した四角い敷地を重宝します。そして逆にいびつに敷地が変形していると不動産価格は落ちます。しかし、どちらが好きかとなれば、変形している敷地のほうが空間はきっと個性的な建物ができあがるはずです。マンションにしても、2LDK、3LDKで窓がある物が市場としては良しとされています。
 世の中の価値観は物でも空間でも一般的なボリュームで、どこに出しても遜色ないことを良しとする向きがあります。しかし、好き嫌いは違います。人それぞれに生活感という指標で判断します。個人にとって何が気持ちよく、何が好みなのかは大切な指標だといえると思います。つまり、センプレの商品は、私自身の空気感が表現されていることにもなりますよね。
 正直、廉価な物でも商品自体の機能性では、それほど違いはないと思っています。しかし、何が好きなのかという価値観については、しっかりと選別していくことがとても大切なことだと思っています。それが、私自身のアイデンティティであり、お客様にもその空気感を感じ取っていただくわけです。つまり、お客様と対話をしているということですね。 だから、バイヤーとして商品を仕入れる際は、自分の価値観に沿う物を必ず選ぶようにしています。暮らしを一つのテーマにして、何かが感じられるような商品を私なりのこだわりで、きちんと選定し提供していきたいと常々思っています。

―ありがとうございました。

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SEMPRE HONTEN
東京・池尻大橋の高速道路が交わるドラマティックな風景の中にあるのが、センプレ本店。10000点以上に及ぶ扱い商品がほぼ全てそろう売り場は圧巻。入ってすぐの1階では生活雑貨や食器、話題の新製品が揃います。2階、3階はリニューアル。2階はアルテックを始めとする世界のデザイン家具で、具体的な生活空間が創造できます。空間づくりの為の3階は、フロアすべてがショップになり、テーブルやチェア、ソファなどが、より充実。内装や間取りを変えるリノベーションの相談にも応じています。

〒153-0044 東京都目黒区大橋 2-16-26 1F•2F•3F
tel.03-6407-9081 fax.03-6407-9082(ネット販売問い合わせ tel.03-6407-9061)
OPEN:11:00~20:00(Mon.~Sat.),11:00~19:00(Sun./Holiday)
CLOSE:年中無休
アクセス方法:東急田園都市線 池尻大橋駅北口出口より 渋谷方向へ徒歩5分。駐車場、駐輪場を完備しております。

Photo _ Tomoki Hirokawa

(Life Design Journal vol.4 2014年4月25日号掲載記事転載)

田村昌紀 (たむら まさとし)

1944年兵庫県芦屋市生まれ。武蔵野美術大学工業デザイン科卒業後、米国ミシガン州クランブルッグ アカデミー オブ ア-ト卒。
サンドバーグ フェラー工業デザイン事務所勤務。家電、交通機関等の工業デザインを担当。
帰国、田村デザイン事務所設立。1996年株式会社センプレデザイン設立。LIFESTYLE SHOP SEMPREの運営を中心にショップ、デザイン、スタジオ業務を行う。

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