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いけばな草月流第四代家元 勅使河原茜 × 谷口 正和 スペシャル対談「成熟社会のライフスタイル」

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成熟社会へと突入した今、これまで「アート」と呼ばれていたものが、暮らしの中で顕在化してきた。それは「働き方」と「生き方」が重なる新しいライフスタイルの誕生を意味する。まさに「全員がアーティスト」と呼べる社会の中、華道の第一人者である草月流家元の勅使河原茜氏に成熟社会におけるライフスタイルについて聞いた。

2020プログラム
世界に向けた「おもてなし」

谷口 2020年の東京オリンピックの招致活動に成功しました。今、世界からお客様をいかに迎えるか、という課題に直面していると思います。日本文化の象徴とも言えるいけばな界においては、「おもてなし」という部分で、多大な期待を受けているのではないかと思います。その部分についてはどのように受け止めていますか。

勅使河原 TOKYO2020への期待値はどんどん高まっていると思います。東京で開催された1964年大会。私を含め当時、子どもだった今の50代以上の人たちは、当時の強烈なインパクトがしっかりと脳裏に焼きついているはずです。それから約50年が経過し、日本の経済発展とともに成人を迎えた当時を知る人たちにとっては、感慨深く、次回の東京オリンピックに対する期待も相当高いものがあるのではないかと思います。

谷口 期待値の高まりから、進むべき進路を見誤ってしまわないようにしなければなりません。特に意識されていることは何でしょうか。

勅使河原 私たちに期待されていることの一つとして、まずスポーツの祭典であるオリンピックに、日本らしさというエッセンスを取り入れていくという役割があるのではないかと思っています。それはいけばなこそが日本文化だと押し付けがましく訴えていくのではなく、ふとした瞬間に自然に感じてもらえる「和」の心。そこに草月らしさというものを取り入れていきたいと考えています。例えば、ただ花を観賞してもらうだけではなく、そこから日本文化を感じ取ってもらえるような仕掛けを構築していければ面白いのではないかと思います。

谷口 アスリートは日々、鍛錬に勤しみ、辛い練習を乗り越えて、オリンピックという発表の場で評価を受けます。いわば、集大成として臨む大会です。しかし翻って見れば、スポーツだけではなく、日々の鍛錬を乗り越え、表現力を磨き上げているものは色々なジャンルがあります。成熟社会となった今、暮らしの中にある研鑽こそ、発表と評価の場が必要ではないかと思います。ライフインスタレーションとして、世界への発表、そして評価を受ける場として、オリンピックが活用されうるべきなのではないかと思えてなりません。

勅使河原 世界からお客様を招待するという意味においては、オリンピックはスポーツだけではなく、文化の発表、評価の場となると思っています。その中で、いけばなが担う表現という役割をしっかりと果たしていきたいと思っています。

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オリンピック開催までの
おもいとアクション
歴史と自然とを結ぶ絆

谷口 歓迎プログラムはとても魅力的に感じます。これらを踏まえた開催までの7年をどのように捉えていますか。

勅使河原 7年は長いようで短いと思っています。7年目になってから始めても中途半端な形で終わってしまうので、そのためにも、今から何をやっていくのかいろいろ検討を重ねていかなければならないと思っています。例えば、いけばなの素材である植物の生命感を7年後のカウントダウンに結びつけて、希望や夢を積み重ねていけるようなアクションを起こせたらと思っています。

谷口 官公庁の目標では、外国人観光客数2000万人を目指しています。21世紀は交流の世紀であってほしい。LOVE&PEACEの象徴である花が、その担い手となるべきです。そこを皮切りに現代美術を含め、波及していくように広がっていくことを期待しています。すでにグローバルな視点でも活動基盤を持っておられると思いますが、オリンピックを視野に入れた催し事などはありますか。

勅使河原 オリンピックに向けた具体的な活動の検討はこれからになります。今は、4年後の2017年に迎える草月創流90周年に向かって動いています。まず、この一大セレモニーを成功させなければと思っています。
 オリンピックについては、いけばなにできる可能性を探っているところです。90周年には海外から草月会員が大勢来日しますので、その勢いがオリンピックまでつながればいいですね。

谷口 オリンピックの前に創流90周年というセレモニーをひかえていらっしゃるのですね。すると、オリンピックは、セレモニーの後のちょうど一里塚のところにある感じですね。セレモニーを開かれた流れで、3年後、華道だけではないあらゆる文化が内包されているオリンピックがあるというのは、タイミングとしてとてもいいのではないかと思います。これから100周年を目指して、グローバルプログラムをより強化させていくことだと思います。

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創流90周年世界に広がる華道
文化が暮らしに寄り添うとき

谷口 現在、全国49支部、世界各国の約120支部をお持ちですが、今のフラワーアートの世界はどのような状況になっているのでしょうか。

勅使河原 ロンドンやパリなどヨーロッパは、花に対する文化がすでに成熟しています。アメリカにおいてもフラワーアーティストという人たちは大勢いらっしゃいます。どちらかというと日本のほうが遅れているぐらいです。彼らは外に出ていこうという気持ちを強く持っています。彼らはジャンルに囚われず、自らの感情をまっすぐ花で表現していきます。しかし、日本人の場合は、ジャンルや流派のしきたりを厳格に守っていくという生真面目さからか、個々で自立してアクションを起こしていくことを苦手としているように感じます。
 確かに、そういう伝統を継承していくことはとても重要なことではあると思います。しかし、新しい潮流を生み出すには、伝承という枠組みから離れた場所でなければ難しいのかもしれません。他のジャンルや他流派とのコラボは、今後の大きな課題として力を入れていきたいと思います。

谷口 流派によって決められたことが代々受け継がれてきたために草月流というコアが形成されてきたという反面、世界のフラワーアーティストの強い個性の前では希薄に感じてしまうのでしょう。伝承という意味の中で重要な位置づけを持つ伝統も、アートの世界では足かせとなってしまう。今回のオリンピックが、華道に限らず、日本文化を代表するいけばななどの他団体との交流の場となり、その足かせを取っ払う一つのきっかけになることを期待します。

勅使河原 そうですね。すでにイベントごとでは他の団体と協力して日本文化を紹介したりすることはあります。しかし、単発で終わってしまっていて、なかなか継続という部分では成立していません。これから2020を見据えていくと、そういった他団体とコラボしていくなどして、日本文化の「おもてなし」の心を世界に発信して世界に受け入れられれば、それこそ文化の逆輸入というカタチからいけばな自体も生活者にとって身近な存在に落とし込んでいけるのかもしれません。

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暮らしに根付く文化
素敵な時間を創出

谷口 時は流れずに降り積もっていくもので、その蓄積が暮らしに豊かさを与えていくものです。日常における昼下がり、ふと空いた時間にお茶を飲み素敵な時間を過ごす。そこから、お茶の時間という割り当てに食事の時間という要素が重なり、夜にもなればアルコールも加わってくるかもしれません。そういった広がりをもって、花がもたらす広がりが、周辺にある暮らしと一体になりながら、いけばなという日本文化を様々な世代へ呼びかけていければ、よりいけばなが身近に感じられるのではないかと思います。すでに女性だけではなく、男性や子どもたちへも窓口を広げていらっしゃると伺っていますが、いかがでしょうか。

勅使河原 いけばなには一般的なイメージとして、豪華絢爛でとっかかりにくいものだという偏見があります。もちろん、日本文化の一つとして位置づけられるいけばなには、歴史があり、学ばなければならないことも多くあるのですが、仰々しい花を生けることだけがいけばなではありません。むしろ、特に一般の人たちには、いけばなはおもいを表現するものという認識を持ってもらいたいと思っています。いけばなも、表現したいおもいがはっきりと表現されていれば、たとえ一輪挿しでも良くて、それこそ野原に咲くタンポポだけでもいいと思います。煌びやかである必要はありません。身近な人に感謝の気持ちを伝えることが、いけばなが持つ第一義的な役割なのです。

谷口 もともと花は、「誰かのため」に生けていたのですから、そこに気持ちが上乗せされていることが重要で、豪華である必要性はないということですね。すると、より身近な存在としてあるべきではないかと思います。

勅使河原 そうですね。私たちに課せられている使命は、一般の人たちにもっといけばな自体の意味を理解していただくことだと思っています。仮に豪華絢爛ないけばなが目の前にあったとしても、それと同じようにしなければならないというわけではありません。おもいを表すといういけばなの意味を踏まえていれば十分なのです。一般的に豪勢ないけばなを目の前にすると普通の人は、私には関係のないものだと、自分とは違う世界の話だと思ってしまいます。そうではなく、子どもが両親の似顔絵を描いて「ありがとう」の気持ちを伝えるように、いけばなが持つ気持ちを表現するということと日本文化であるという両面を理解してもらうために、子どもの頃から身近にいけばなに触れていただき、おもてなしの心や感謝の気持ちを表現してもらいたいと考えています。「ありがとう」と子どもが親に花を生けている光景が自然なことになればいいと思っています。これぞ、私たちがやるべきことだと認識しています。

谷口 花に言葉を託して幸福を語り合うことで重要なコミュニケーションが生まれてくることですね。それが身の丈にあった日常の中に存在していることは豊かな時間をはぐくむはずです。今のような話を聞けば、小さいけれども、自然と共生していく日常の幸福論とつながっていきます。スケールエンターテインメントから、日常の出会いの場へといけばなが降り立っていくことが理想だといえますね。

勅使河原 それは私たちがやらなければならないことだと思います。強い先入観からか、ただ言葉でいうだけでは伝わらないのが悲しいところです。しかし、いけばな本来の意味を知ってもらえれば、きっと皆さんが心豊かに暮らせるようになるものだと信じています。

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暮らしの中の一輪挿し
気持ちを伝えるアート

谷口 いけばな本来の意味が浸透していければ、きっと一般の人たちの気付きも高まるはずです。単純な話であるのに、難しい話にしてしまう。日本人は英語を語学と構えて見てしまうように。花の持っている豊かさから、心と心を通わす部分でリードを取っていくというのは、すばらしいことだと思っています。

勅使河原 多くの人たちの日常の風景として、文化が落とし込まれていけば、本当の豊かさや幸福というものも気付かされるのではないかと思います。成熟した社会において、暮らしを考えると日常生活にこそ、花が必要になってくるのではないかと思います。

谷口 そうですね。日本人はようやく本当の豊かさについて気付き始めました。その進むべき道を間違えないようにしなければなりません。オリンピックについても同様に言えることです。東京、日本だけのオリンピックではなく、世界のためのオリンピックと位置づけ、世界と連鎖し、日常にある些細な幸福へと再び原点回帰していく。その先導役としてわれわれが指揮を執っていかなければならないことでしょう。

勅使河原 「おもてなし」の気持ちを持って取り組むオリンピック。そのおもいを花で表現する、ということが伝われば、きっと暮らしの中にも、より多くのいけばなによる表現が増えてくると思います。特に自宅の一角に生けた花が添えられているだけで、華やかな気持ちになるはずです。そして、そのいけばなに生け手のおもてなしのおもいがうまく表現されていれば、さらに心安らぐ豊かな空間となるはずです。この花が持つ力を一人ひとりが認識して、実行に移していただければ、とてもすばらしいことだと思っています。

谷口 生活芸術家の時代というにらみの中で花がもたらす影響について、草月の新しい女性リーダーである家元の茜さんにコメントをいただきました。ありがとうございました。

(Life Design Journal vol.3 2013年10月25日号掲載記事転載)

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『いけばな-出会いと心をかたちにする』(角川書店)
創造を通じて「現代」と向き合い続けてきた草月流。その歴史とともに、伝統、いのち、個性など様々な角度からいけばなの魅力と奥深さを語る。

 
 

勅使河原茜氏(てしがはらあかね)

いけばな草月流第四代家元

第三代家元で映画監督でもあった勅使河原宏の次女として生まれる。2001年家元継承。「自由な創造」を大切にする草月のリーダーとして、国内外で精力的にいけばな作品を発表し、多様化する現代にふさわしい新しいいけばなの可能性を求めて、公共空間や商業スペースでの作品制作や、能やダンスの舞台美術など、他分野アーティストとのコラボレーションにも積極的に取り組む一方、植物から得たインスピレーションをもとにジュエリーデザインも手掛けている。また、幼稚園教諭の経験を生かして、いけばなを通じて子どもたちの感性と自主性を育むことをめざす「茜ジュニアクラス」を開講し、20年以上にわたり指導に力を注いでいる。現在は舞台空間にゼロから花をいけていく様子を、音楽や光とともに演出するパフォーマンス「いけばなLIVE」を各地で上演するなど、みずみずしい感性で敏感に時代をとらえた独自の世界を築いている。
公式サイトhttp://www.sogetsu.or.jp/

谷口正和(たにぐちまさかず)

マーケティング・コンサルタント、株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長

1942年京都生まれ。京都鴨沂高校を経て武蔵野美術大学造形学部産業デザイン学科卒業。生命、生活、人生の在り方を問う「ライフデザイン」を企業理念そのものとし、地球と個人の時代を見据えて常に次なる価値観のニューモデルを提示し続ける。コンセプト・プロデュースから経営コンサルテーション、企業戦略立案、地域活性計画まで幅広く活動。時代を週単位で分析し続けている週刊「IMAGINAS(イマジナス)」はウィークリー情報分析誌の草分け的存在。会員制ワークショップとして、21世紀の新マーケット・パラダイム『文化経済』市場の商業、観光、産業の経営を学ぶ「文化経済研究会」を主宰。 日本デザインコンサルタント協会・副代表理事、日本デザイン機構・理事、日本Webソリューションデザイン協会・顧問、京都文化観光創造塾・座長等を務める。

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