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昭和女子大学 理事長・学長 坂東 眞理子 × 谷口 正和 スペシャル対談「ダイバーシティ・マネジメント」ワークライフバランスの未来を見据えて

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少子高齢化による人口減少問題から「人手不足」という大きな課題が露見し始めてきた日本社会。 一方で、ノマドやソーシャルワーカーなどという暮らしと直結した新しい働き方が登場する現代社会は、まさにワークシフトの時代といえる。 これまで女性の社会進出に尽力してこられた昭和女子大学の理事長兼学長の坂東眞理子氏に「多様性」が求められるこれからの時代を見据えた「人材育成のあり方」について伺った。

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女性の社会進出
時代が求める新しい働き方

谷口 キャリアをスタートされた総理府、今で言う内閣府で男女共同参画室長・内閣府男女共同参画局長として婦人問題に携われ、男女共同参画社会基本法の制定に尽力してこられました。そんな中、この法律が制定されて以降、日本の社会の変化に対してどのような感想をお持ちですか。

坂東 日本社会は、時代の変化への対応が遅いと言われていますが、30、50年という中長期のスパンで見れば、劇的な変化を遂げていると思っています。その転換の時期にかかわれたことは、とても良い経験をさせていただいたと思っています。

谷口 長期的なスパンで見れば、確かに男女の性差による違いは徐々になくなりつつあります。

坂東 短期的な目で見れば、日本の場合、社会のコンセンサスを得るまでに時間がかかります。ようやく女性が社会で働き出すようになり、女性も男性と家計への負担を分かち合う社会となりました。それも、人口減少という問題によって日本社会を持続できない課題を目の当たりにしたことでようやくコンセンサスが取れたように思います。
企業、公務員、団体すべてにおいて、2020年に女性管理職の割合を30%以上にするという具体的な目標数値があります。その中では、民間企業が少し遅れています。女性の管理職の登用は先進国の中で、ほとんどの国が30%を達成しており、アメリカでは40%を超えています。さらに東南アジアのフィリピンでは50%を越えるほどです。タイやミャンマーをはじめ、多くの東南アジア諸国でも女性が活躍しています。

谷口 諸外国と比べても日本は遅れを取っていますね。しかし、いざ管理職を任されるとなると、女性のほうから断ってしまう場合もあるそうですね。

坂東 今、日本社会も過渡期にあると思っています。これまで女性は管理職に登用されても、単なる飾りで先の見通しがない可能性が多くありました。実際に名ばかりの管理職となり、面白くない仕事を任されることもありました。その上、社内での風当たりは厳しくなることが予想されるので、概ね断ったほうがいいという判断をされている方が多かった。しかし、男性の場合は、管理職になると、楽しいことが多くなることを既に知っています。例えば、自由裁量が増大しますし外の世界もみえてきます。それが女性には伝わっていないようです。むしろ、女性の立場からすると、家庭を犠牲にしないといけないと考えてしまっている。こうした女性には、管理職に就くことを勧めています。ポストにつけば自分自身が働きやすくすることができるというのに、多くの女性はまだその現実を知らないのでしょう。

谷口 確かにそうかもしれませんね。これまでロールモデルがありませんでした。しかし、女性の管理職登用には、これまで男性の仕事を女性が代替するのではなく、女性だからこそできる仕事に期待されています。

坂東 今ある働き方は男性的です。それは60年代の働き方そのものです。これは経済成長を続けてきた当時の働き方であって、経済が縮小していく今、持続性がないように思います。今こそ、女性が要職に就いて働き続けることで、21世紀型のワークスタイルを切り開いていかなければならない時にいるのでしょう。それが2020年に管理職に占める女性の割合を30%と定めた本来の意義であると思っています。

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多様化する価値観
「らしさ」を受容する社会へ

谷口 これまでの女性が社会をリードしていく潮流がある中、今の20代の男女には変化が見られます。

坂東 そうですね。「草食系」という言葉は今、ネガティブな表現として使われていますが、「草食系」という言葉を使い始めた深澤真紀さんいわく、「褒め言葉として使っていた」そうです。女性に対して理解がある上、しっかりとコミュニケーションが取れる資質を指しています。ところが、60年代の働き方を第一義に考えている方にとっては、「最近の若者は草食系でこまったもんだ」などという使われ方をしてしまっています。

谷口 しかし、今、テレビでもよく見かける男性タレントはどこか女性の特長と似ているところがあります。男女の中間にある「自分らしさ」ともいうべき感性ですね。

坂東 男女両方の考えが分かることはとても大切な要素だと思います。

谷口 逆に古い世代の人たちは、区別と役割という社会通念にしばられて、興味あることがあっても率先して切り出せなかったのかもしれません。

坂東 女性が働くということは男性にとっても有益なことです。何より人生の選択肢が増え自由度も増します。最近、イクメンという言葉も増えてきました。ただ育児は、女性が分担されてきた仕事の中で、クリエイティブな分野に該当する面白い仕事ともいえます。これからは家事の雑用などの楽しくないことまでも参加していって欲しいですね。でも「主夫」は「主婦」と同じく専業より兼業のほうがよいですね。

女性のベンチャースピリット
社会貢献型というシナリオ

谷口 ようやく本当の意味で職業選択の自由が担保されてきたと思います。起業についてどのようにお考えですか。

坂東 今、昭和女子大学では女性の特徴を活かした「起業」に注目しています。社会人女性を対象とした「キャリアカレッジ」を設立し、起業家養成コースを2014年5月から開始しました。
男性の起業家は、いかに株を上場させて大企業へと成長させていけるかを起業する時の判断基準となっているようです。しかし、女性で起業する人の場合は、大企業へ成長する可能性を目標においているのではなく、自分が困っていることを解決したいと起業しているように感じます。例えば、子育てで、直面するさまざまな壁を乗り越えることで、ビジネスにつなげていけないかという着想です。そこには、まず社会性があります。そして収益は二の次となります。女性は、起業家として成功しないなどとネガティブに捉えられていますが、むしろ、価値を創造するためには不可欠な視点や気づきが含まれているのです。

谷口 生きることと働くこととを分けずに生活課題をビジネスへと転換していく着眼は重要な視点のように思えます。一方で、日本では1400兆円という使い道のない宙に浮いたお金があり、その行き着く先は別荘や家、車を購入するといった旧態依然の使い方しかありません。それが膨らみ過ぎて、空き家が820万戸あるという問題が浮上してきました。

坂東 まちづくりにおける国の政策判断も、スクラップアンドビルドのように男性的な発想ではなく、宙に浮いてしまった財をどう活用するのかという女性的なアイデアが重要になっています。

谷口 その通りです。それも今ある財を活かす知恵がないからです。所有価値から使用価値への転換がなされていません。そういう意味で、暮らしの中で困ったことに対して、ビジネスに転換する視点は、女性ベンチャーのほうがシナリオを持っている印象を持っています。

坂東 そもそも競争の先にある富を手にする起業ではなく、気がつかないところに気づき、新たなニーズを発掘する起業のほうが健全だと思います。

谷口 この発想はとても重要だと思います。利益は二の次にして継続させるために起業する女性のベンチャー精神こそ、21世紀型のビジネススタイルであり、一つひとつが社会に対する提言となります。

坂東 経済の専門家は、お金を廻さなければ経済が破綻すると警鐘を鳴らします。成熟社会の今、その考え方に捉われていたら、失われた20年と何ら変化のない経済政策と思えてなりません。経済成長は人が幸せになる手段だったものが、それがいつしか目標になってしまっています。幸せには、必ず手ごたえがあります。人に喜んでもらえたことや無理だったことを成し遂げた達成感など幸せを感じる機会をもう一度見つめ直す時期にあるように感じています。

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これから目指すべき
大学教育「多様性を認め合う心」

谷口 大学では海外交流も盛んに行われています。

坂東 昭和女子大学は、1920年(大正9年)、詩人の人見圓吉は、トルストイが理想とする「愛と理解と調和」に教育の理想を見いだし、開校しました。戦中、戦後、経済成長期と女性への教育もさまざまな変遷を経て時代の流れにあわせて現実的な生き方を女性に提示してきたと思います。しかし、いまやどんなに立派な企業であっても倒産するというリスクがあります。こういうリスクがある中、従来型の結婚退職型人生設計では機能しなくなりました。
一方で、社会は少子高齢化の中、女性の能力を直接社会に活かしていこうというニーズがあります。そこで昭和女子大学では今、「グローバル化」を大きなキーワードとしています。その象徴でもある1988年に開校したボストン校。これは26年間続いています。当時、日本の女性は結婚した後、夫の転勤などで海外生活を余儀なくされることがありました。その女性たちに安全安心な環境の中で、海外の生活が体験できるのが魅力でした。しかし、今の女性たちは自分自身がグローバルプレーヤーとして活躍することが求められています。英語力も社交会話程度ではない、ワンランク上のレベルを身につけていけることをコンセプトとしています。

谷口 グローバル化は海外進出ばかりではなく、多様性を認めることが本質としてあると思っています。例えばインバウンドという動きがあります。2014年1〜6月では、訪日外国人の数が626万人となりました。訪日外国人の傾向も欧米だけに限らず、諸外国全般で中間所得層の方々が多くいらっしゃいます。

坂東 グローバル化の中、日本の伝統も大事ですが、日本は何が強みなのかを知る必要があります。

谷口 それに気づかせてくれるのは外側にいる人たちです。その指摘を受けて、自らの美意識について考えるようになります。

坂東 確かにそうです。例えば、私たちが日常生活で使うシャンプーやリンスなどの日用品が外国人に人気だと聞いています。これは日本の暮らしの「質」が評価されているとも感じています。昔、世界中の誰もがアメリカの暮らしが手本で豊かさの指針となりました。だからと言って、みんながみんな日本のライフライフスタイルに憧れているということはありません。全体ではなく、個別に良いところを取り入れていく。世界規模で多様性が芽吹いています。

谷口 昭和女子大学では世界中からも生徒を募集されていますね。

坂東 去年から3週間のサマープログラムを始めました。学生が外に行くのも大事ですが、多様性という観点からも、海外から日本に来てもらうことも、とても大切なことだと思っています。海外の方の場合、日本の学生と同じ話を聞いても違った捉え方をされます。今年の秋からは、世界中の日本語初心者を対象に、世田谷キャンパスでインテンシブジャパニーズプログラムを開始します。5カ月間集中して日本語を習得し、英語で日本文化も学習できます。そもそも日本に訪れる留学生は、日本を知りたいのです。アメリカの経済学を学びたいのであれば、アメリカに留学するはずです。学生にとって日本を学びたいという方々との交流はとても大切なことだと思っています。

谷口 日本人にしてみれば、外国人との交流から日本の魅力を再発見するということもあります。例えば日本人であるにもかかわらず、盆踊りすら踊れないという方もいらっしゃると思います。外国人との交流を通してそのような生活文化を身につけることが必要だと思います。

坂東 そうですね。着物もきちんとできなくても着ることができれば問題ありません。学びたい人が学びたい時に学べることが大切です。これが今、大学が果たすべき役割だとも思っています。26年前には生涯学習施設オープンカレッジを開校しました。今年社会人女性対象の「キャリアカレッジ」を設立し、そこに女性の「起業家養成コース」と、企業内でのキャリアアップをめざす「ブラッシュアップコース」の2つを開講しました。これまでオープンカレッジは暮らしを楽しむ人の学び舎でしたが、働く人を応援していくことも大切な役割だと思っています。ましてや伝統文化を学習するということはグローバル化の時代、ますます必要になってくると思います。

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日本の学習要綱の限界
「愛」のある学び舎へ

坂東 世田谷キャンパス内には、ブリティッシュスクールがあります。これは日本で働く英国連邦の子どもたちが通う学校です。日本の学習指導要領に則していないのですが、日本人の親から、子どもを入れて欲しいという声をよく聞きます。グローバル化が進む中、社会の変化に敏感な父兄にとっては、現在の学習指導要綱では心もとないのでしょう。

谷口 現在の日本の学習指導要綱は、それぞれ個性を持っている子どもたちに対して、多様性が認められるシステムになっていません。

坂東 私がアメリカを訪れた時に驚いたのが、何にでも褒めあうことですね。私がわからないことに対して質問をした時に、必ず「Good question!」などの褒め言葉が飛び交っています。その言葉で、気が引けた気持ちから、とても良い気分になります。しかし、日本の場合、このような風習がありません。逆に試験で95点を取れたとしても、「どうしてあと5点が取れないの」と指摘してしまっています。

谷口 これらは男性的な風習ですね。むしろ、褒めることに関しては女性の情感が成せることだと思います。受け入れられていくことで多様な価値観が生まれてきます。だから、評価の場、発表の場を増やしていかなければなりません。それはクリエイティブも同じで、学習・体験したことに対して評価することが大切です。1枚の絵が褒められるとまた次の絵を描こうと思えてきます。褒め方の開発が不可欠ですね。

坂東 褒められることで自分の生涯が楽しくなるし、自信も沸いてきます。ストイックに上を目指す時も必要ですが、何よりも個性を尊重することが重要です。これはグローバル社会において不可欠な要素であると思います。しかし、日本人はその逆のことをしています。

谷口 この違いは、一見小さなことかもしれませんが、人材育成という観点で見ればとても大きな差だと思います。これが人の一生を左右する可能性すら秘めています。 坂東 そうですね。褒められることで、個性が尊重され素直に仕事が楽しくなるものです。私は幸いにして仕事が楽しかったし、成長することもできたと思います。大学を預かるものとして、この経験は必ず活かしていこうと思っています。 谷口 資源に恵まれた国ではない以上、創意工夫を生みだすクリエイティブこそが日本の資源だと思っています。これからの坂東さんのご活躍を期待しています。貴重なお話をありがとうございました。

(Life Design Journal vol.5 2014年10月15日号掲載記事転載)

坂東 眞理子(ばんどう まりこ)

昭和女子大学 理事長・学長

富山県生まれ。1969年東京大学卒業、総理府入省。青少年対策本部、婦人問題担当室、老人対策室、内閣総理大臣官房参事官、統計局消費統計課長などを経て男女共同参画室長、1995年~1998年埼玉県副知事、1998年~2000年ブリスベン総領事、2001年~2003年内閣府共同参画局長、2004年4月~昭和女子大学大学院教授、女性文化研究所長、2005年~2007年3月まで昭和女子大学副学長、2007年4月~昭和女子大学学長、2014年4月~学校法人昭和女子大学理事長 現在に至る。

谷口正和(たにぐちまさかず)

マーケティング・コンサルタント、株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長

1942年京都生まれ。京都鴨沂高校を経て武蔵野美術大学造形学部産業デザイン学科卒業。生命、生活、人生の在り方を問う「ライフデザイン」を企業理念そのものとし、地球と個人の時代を見据えて常に次なる価値観のニューモデルを提示し続ける。コンセプト・プロデュースから経営コンサルテーション、企業戦略立案、地域活性計画まで幅広く活動。時代を週単位で分析し続けている週刊「IMAGINAS(イマジナス)」はウィークリー情報分析誌の草分け的存在。会員制ワークショップとして、21世紀の新マーケット・パラダイム『文化経済』市場の商業、観光、産業の経営を学ぶ「文化経済研究会」を主宰。 日本デザインコンサルタント協会・副代表理事、日本デザイン機構・理事、日本Webソリューションデザイン協会・顧問、京都文化観光創造塾・座長等を務める。

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