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ジュエリーブランド『HASUNA』代表 白木 夏子さんインタビュー「貧困をなくすために― 社会的価値の変革を問う マーケットイノベーション」

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2009年4月にジュエリーブランド『HASUNA』を立ち上げた白木夏子さん。国内で初めてR J C 認証を取得するなど「エシカル」の道を切り開いてきた。日本のエシカルジュエリービジネスのトップランナーとして走り続ける彼女の原動力について伺った。

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世界中の誰もが輝ける社会に「HASUNA」を設立

ージュエリーブランドHASUNAの設立に至った経緯を教えてください。

 小さい頃からものづくりへの関心はありました。母親がファッションデザイナーをしていたので、デザイン画の書き方を教えてもらい、子ども用のミシンで、よく人形の洋服などを作って遊んでいましたね。

ー小さい頃から、ものづくりに対する関心があったんですね。しかし、大学は国際関係の進路を選ばれています。

 それは一緒に住んでいた祖父の影響が強いです。戦争経験者だった祖父からよく日本人として何をすべきかについて考えさせられていました。また祖父は旅行も好きだったのでアメリカをはじめ、ヨーロッパ、アジアなどの話を聴いていて、私も世界に出てみたいという気持ちを抱くようになりました。将来は国際協力の仕事に就こうと、大学に進学しました。
 転機は、イギリス留学中に偶然、フィールド調査で訪れたインドの鉱山で働く労働者が劣悪な環境下で働いている現実を目の当たりにしたことです。その惨状を変えていくには国際協力だけではまかないきれないと思い、あえてビジネスの世界に身を置き、ビジネスそのものの概念を根底から変えていく必要があると起業することを心に決めました。

ーそして2 0 0 9 年4 月に「HASUNA」を立ち上げられました。

 社名の「HASUNA」は泥の中から綺麗な花を咲かせる蓮の花に由来しています。会社を立ち上げてからも、鉱山から直接仕入れようと、日本の宝石店を何店か当たりましたが、誰もどこの鉱山で採掘されているかなんてわかりませんでした。100円、200円で販売している野菜の生産者がわかるのに、一つ何万円もする宝石は、採掘者の顔が見えないという反応に業界の歪みを感じていました。
 そもそもジュエリーの歴史は、先史以前からありますが、その生産者の部分が長い歴史の中で、ブラックボックス化してしまったことは多いにあり得ると思っています。そして、店頭に並ぶまでに何人もの人が介入しているため、その度に値段が上がっていきます。しかし、最も搾取されているのは末端の人たちです。ますます彼らの労働環境を改善していきたいと思いを強くしていきました。

ー現在、カナダ、ルワンダ、ボツワナ、ナミビア、パキスタン、インド、ミクロネシア、ペルー、コロンビア、ボリビア、ベリーズの全11カ国から仕入れられていますね。どのようにして開拓していったのですか。

 基本的には人伝に紹介していただいて、実際に現地を視察してから取引を始めています。
 例えば、アフリカのルワンダでは、ストリートチルドレンだった青年たちを集めて牛の角を研磨する工場を立ち上げている人を紹介され、取引を始めました。またパキスタンで採れるカラーストーンの9割が買い叩かれて密輸されてしまうそうです。その密輸を防ぎ、正規ルートで買い取っているNGO団体を紹介してもらい、取引をしています。そこは現地の貧困層の女性たちを集めて研磨技術の研修を行うなど労働者の地位向上に取り組んでいる団体です。
 これから取引を始めようとしているスリランカは、スリランカ人とイギリス人の二人がやっているディーリングの会社を紹介していただき、現地を視察してきたところです。ここは採石場が田んぼのど真ん中にあり、露天掘りで採掘されています。通常、数千m級の山に登り、そこで山肌を削って採掘していますが、ここは、崩れた山が川に流され堆積した地層から採掘しているため、平地になっています。

ーそれぞれに興味深い場所ですね。とくに思い入れのある鉱山はどこですか。

 ペルーの首都リマから南に10時間ほど走ったところにあるチャラ近郊にある金鉱山です。金鉱山は大抵、大きな会社が巨額な資本を投下して、効率的に採掘して金がなくなるとまた別の場所へ行くという感じで採掘しています。そしてそこでは多くの子どもたちが働いていたり、水銀を使っているため、健康被害のある方も多くいます。
 しかし、そこは健康被害もなく子どもも働くことなく、安全に採掘が行われています。しかもそこは大手の資本に晒されることなく自分たちの村を維持できるだけの金を採掘して輸出しようという取り組みを行っており、100人程度で回している鉱山です。
 創業時、まだその採掘場にフェアマインド認証が下りていなかったので、そこから金を仕入れることができませんでしたが、2010年にフェアマインド認証が下りたので、直接、金を扱えるようになり、現地にも行きました。
 フェアマインド認証が付くと金1g あたり、およそ4000〜5000円で取引され、そのうち2・5ドルほどがこの村のインフラや、学校の建設費用、社会のために役立てられています。

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HASUNA表参道本店のエントランス。落ち着いた雰囲気から白木氏の個性が感じられる。
                                            

「エシカル」を封印
貧困の解決のためあえてレッドオーシャンに挑む

ー最近では、「エシカルジュエリーブランド」ではなく、ジュエリーブランドという言い方をされているそうですね。

 2015年からエシカルジュエリーという言い方をやめて、ジュエリーブランド「HASUNA」としています。例えば、フェアトレードのコーヒーや紅茶は単価が1000円、2000円です。そういう価格帯であれば、社会に貢献できるから買ってみようという気になる人は多いと思います。ただジュエリーの場合は、高価である上、自分で身に着けて満足しないと、なかなか何万円も出さないものです。
 確かに設立当初、ホームページでも採掘場の写真を載せるなど、なるべく現場の採掘者を見せるようにしていました。しかし、エシカルに特化していると、とても狭いマーケットの中でやっていかなくてはなりません。おそらく年商も5000〜6000万円規模が限界だろうと感じています。しかし、そのくらいの規模で満足しているわけにはいかないのです。そもそも、私が見てきた鉱山で働いている子どもたちが世界には100万人以上いると言われている中、年商1億円以下の小さな規模では状況を変えることはできません。このビジネスモデルが、すべての模範となるように成功させなければ、影響力もないと思っています。業界の慣習を変えるには、多くの人が「HASUNAのようなエシカルなビジネスをやっていくことが成功への道だ」と思ってもらえるような規模にまで持っていかないと、私が目の当たりにした現実を変えることはできないと思っています。
 2014年頃から少しずつリ・ブランディングを行っているところです。

ーあえてレッドオーシャンに挑まれたわけですね。ある意味、「エシカル」を封印した今、変化はありましたか。

 まず、実感としてお客様が変わりました。創業当時は、意識の高いエシカル好きの方がほとんどでしたが、2015年あたりからは、ファッションやジュエリー好きの方のほうがマジョリティになってきたと思っています。
 また、最近、大手ジュエリー会社もRJC認証の取得に奔走しているようです。ようやく宝石業界もエシカルを意識し出したという印象です。私の目指しているのは、鉱山で働く労働者の環境を少しでも向上させることです。そのためにも、全ての会社の扱う宝石が倫理観のある取引が当たり前となることが望ましいと考えています。だから、エシカルという言葉がブランディングの主たる要素となっていてはいけないと思っています。

「変化を恐れるな」
自らが変革の旗手へ

ーしかし、実際にエシカルを封印するのは、とても勇気のいることだったと思います。その原動力とはいったいなんだったのでしょうか。

 2013年の世界経済フォーラム・ダボス会議に参加した際、IMFのクリスティーヌ・ラガルドさんの「変化を恐れるな」という言葉が私の背中を押してくれています。彼女が働いていた弁護士事務所もまた男性中心の会社で、時短勤務なんてありえなかったそうです。しかし、彼女は勇気を持って毎週水曜日に17時に会社を出て子どもと過ごす時間にしていたそうです。
 この言葉がすごく響いています。やはり、いつ、どのような時代もマイノリティであるということは辛いものです。そして何か他の人と違うことをするのは勇気が必要になります。しかし、彼女の言葉の通り、何事にも変化を恐れないことが大切だと思えるようになってきました。

ー実際に変化を恐れず、新たにエシカルジュエリーという市場を開拓されました。

 素材の流通過程をクリアにしたり、現地から仕入れたりするということは、どの会社もこれまでやってこなかった未知の領域で、いわばマイノリティでした。しかし、自分の心の中にある「はてな」を大切にして行動した結果、今では良い流れがつくれているという自信にもつながっています。
 日本では女性の起業家自体が、まだまだマイノリティです。未だに女性の起業家のことを「女性起業家」と呼ぶくらいです。やはり、女性が変化を起こすということは、まだまだ珍しいことなのかもしれません。しかし、実際に変化を自ら起こしてみると、新しい世界が見えたり、周りにもいい影響を与えたりすることができました。これからも何事にも恐れずに進んでいければと思っています。

ー起業されて、何か身の回りで変わったことはありますか。

 やはり自分で起業すると、自分が理想とする組織が作れることに気づきました。例えば、ワークライフバランスを取りつつ働けるような組織にしたり、自分の理想的な働き方を取り入れたり、いろんなことができるようになりました。社内にも働いているお母さんが多くいます。私自身も現在、3歳の子どもがいて子育て中です。
 子どもはよく親を見ていますね。子どもと一緒におままごとをすると、子どもが「じゃあ、ママはお仕事に行って来るわね」といっていそいそと出かける仕草をしたり。これも今までにはない変化の一つなのかもしれませんね。

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2016年に訪れたばかりのスリランカの採掘場。田んぼの真ん中では露天掘りによる採掘が行われている。
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2008年11月に初めて仕入れに訪れた中央アメリカ、ベリーズの貝殻研磨職人と打ち合わせをする白木氏。
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ペルーの金鉱山。金のほか、クオーツやシルバーも一緒に採掘される。ここでは20代から50代まで約100名が働いている。
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カナダやロシア産のダイヤモンドとフェアマインド認証の金をあしらった「l’air」
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「ただ一つの、随一の」を意味するuniqueを冠した「l’unique」、白木氏が初めて仕入れたベリーズ近郊でしか採れないウィルクス貝の柄をモチーフにしている。

(Life Design Journal vol.8 2016年4月15日号掲載記事転載)

白木 夏子 (しらき なつこ)

ジュエリーブランド『HASUNA』 代表

英ロンドン大学卒業後、国連機関、金融業界を経て2 0 0 9 年4 月にHASUNA Co.,Ltd.を設立。2011年「日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2011キャリアクリエイト部門」受賞、「世界経済フォーラム Global Shapers」、AERA「日本を立て直す100人」に選出。2012年APEC(ロシア)日本代表団として「Women and Economy 会議」に参加。2013年世界経済フォーラム(ダボス会議)に参加。2014年「Women of the Future Summit」に参加し、内閣府「選択する未来」委員会委員に選出。またForbes誌「未来を創る日本の女性10人」にも選出される。著書に『女(じぶん)を磨く言葉の宝石』(かんき出版)ほか多数。

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