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NPO法人 芸術公社 代表理事 相馬 千秋さん インタビュー 「演劇という 切り口から思考する 新たな社会の在り方」

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日本及びアジア地域におけるアートと社会の接点を探りながら、新たな芸術の方法論を提唱する「芸術公社」の代表を務める相馬千秋さん。アートプロデューサーとしての取り組みから、社会における演劇の可能性までを聞いた。

                                                                

演劇が持つ社会的役割を見直し、既にある日常を演劇化する

ー舞台芸術のプロデュースを多くされていますが、演劇に携わるようになったきっかけを教えてください。
 演劇のプロデュースをしている人は、学生時代に演劇サークルに入っていたり、自分で演出や俳優をやっていた方が多いんです。けれど、私の場合はそういう経験が一切なく、むしろ学生時代までは演劇が苦手でした。文学や美術、映画は大好きでしたが、どうも演劇だけは自分の感覚にあまりフィットしなかったんですね。ただ、フランスの大学院留学中に、舞台を見る機会が多くできたんです。私が通っていた学校の前にたまたまオペラ座があって、1000円程で一流の作品を見ることができるという、日本では考えられないような環境があったんです。そうして浴びるように観劇をしたことで、パフォーミングアーツにも興味を持つようになりました。芸術家や作家になるよりは、もともと社会で具体的なことを興したいという想いもあり、その後日本に帰国するタイミングで、縁もあり舞台芸術などのフェスティバルを運営する組織に就職しました。

ー2013年までプロデュースされていた日本最大の国際舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー」(以下、F/T)では、どういった考えのもとで運営を行ったのでしょうか。
 大前提として、日本の演劇界のメインストリームはいわゆる商業演劇で、芸能プロダクションをベースに作られているため、動員数や売り上げもそこが圧倒的に大きな割合を占めています。これは公共劇場の中でも同じ構造ですが、F/Tでは、その現状を追随するのではなく、「演劇が今日の社会の中で持つ役割を考えなおし、再定義する」という意識を持ち、戦略的にカウンターとなり得るようなプログラムを組んでいきました。私たちが都市空間で生きる想像力として必要とされるのは、これ以上何かを上書きすることではなくて、既にあるものをどう見るかという「見方の設定」だと考えています。それを「フィクショナルなフレーム」と定義し、既にある日常を演劇化していくことが一つの試みでもありました。例えば、トラックの荷台を改良してその中にお客さんに入ってもらい、トラックごと移動して都市を舞台化するといった、いわゆる演劇のイメージとはかけ離れた作品も沢山上演しましたね。

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作品の背後に埋もれた作家の膨大な経験と思考に焦点をあてる

ー2014年からは、芸術公社というNPO法人を立ち上げられていますね。
 F/Tの運営から離れたあとも、プロデュース活動を続けるため、活動母体となる芸術公社を立ち上げました。表現にとって逆境の時代に到来した今こそ、インディペンデントでいることが重要だと思ったんです。また一つの問題意識として、乱立するアートイベントやフェスティバルとは異なる座標軸から作品をプロデュースしたいという想いがありました。日本は、今や誰でもフェスティバルを企画できる時代です。けれども、例えばグループ展に行くと、一人の作家のあてがわれるスペースと紹介のされ方に貧弱さを感じてしまうことも多い。作品の背後にある作家の膨大な知が、現存のフェスティバルからは全く伝わらないんです。鑑賞するお客さんの身体も、幕の内弁当のような展覧会を駆け足で鑑賞するようにプログラムされていて、一つの作品に何十分も時間を使わなくなっています。そうすると、私たちはアートを鑑賞するにも、消費に自分の身体を拘束されて、鑑賞体験が逆に貧しいものになってしまう。この現状を何とかしたいと感じました。

ーその想いが、作り手である作家が舞台に立ち観客に直接語りかける「レクチャーパフォーマンス・シリーズ」に繋がったのでしょうか。
 とても大きなきっかけとなりましたね。私は基本的にアーティストをとても尊敬しています。特殊視するつもりはありませんが、優れた表現者とは、私たちとは全く違う解像度で、世界を捉えて未来に問いを投げかける人たちだと思うんです。彼らの声をしっかりと聞き、自分もそれに本気で向き合うことが今こそ必要な気がします。もちろん、フェスティバルに行って、社会的な問題を扱った作品を沢山見て、世界を体験した気持ちになるのは、入口としてはありだと思います。けれどもそれ以上に、一人の作家の広大な知の量、経験や作品群にしっかり触れる機会を発明したいと思ったんです。特に、美術作品などと比べると、演劇はなかなか一度に全ての作品を紹介することはできません。しかし、レクチャーパフォーマンスのような形態ならば、過去の作品もある程度引用しながら、異なる作品を引き出すことが可能ですから。

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公演の内容を記録したドキュメントブック。F/Tでは、作品を後世に残していくことも重視していた。

演劇的な思考を拡張することが新たな未来を生みだす

ー演劇をエンターテインメントとしてしか見ない、または興味がない人々に対してどういったアプローチが有効だと考えていますか。
 二つの答え方ができますが、一つは何も無限に観客層を拡大する必要はないということ。例えばフェンシングの観客が、無限に拡大するとはあまり思わないように、私は演劇の観客が無限に拡大することを目指していません。ですが、演劇的な思考を社会の中でどう活用するか、ということは考えていくべきだと思います。今、非常に勿体ないのは、私のように演劇と良い出会い方をしなかった人たちに、演劇は恥ずかしい、大げさ、関わりたくないというイメージがあることです。けれども、演劇というのは、舞台の上で大げさな身振りで虚構を騒ぎ立てることではありません。もちろん壮大な悲劇や喜劇を見て、お客さんがカタルシスを得ることも重要ですが、その他の側面についてもっと一般化する必要があります。そのためには、演劇が必ずしも演劇という形をもって受容されなくてもいい。むしろ「フィクショナルなフレームで現実を見る」、その見方を共有することが重要です。例えば東日本大震災が起きた時、多くの人がどこかに集まりたいと感じたと思います。私はそこから、都市から失われたコミュニティを演劇的な方法を通して復活させることができるのではないかと考えました。「人が集まって話し、それを見る人がいる」という演劇の一つの形態を応用して。家族や会社といった強いつながりの共同体とは違う形で、誰もが自由に行き来し、無責任にコミットできる位の場があることで、一人ひとりが個人として独立できる。それを可能とする劇場のモデルを作りたいと今は考えています。

ー不透明な未来に対して演劇の力を用いてどう立ち向かっていけば良いでしょうか。
 まず、常に物を疑う目を養うということでしょうか。今は、カタルシスを得られる演劇体験が主流ですが、そこに見る側からの批評性や距離感がないととても危険ですよね。人間はどこかで、みんなハッと我に返る瞬間があると思います。日々サラリーマンを必死で演じているけど、実は演じている自分を傍観していたり。そういう意味で、人間は実に演劇的に振る舞っていて、そこに宿る批評的な態度を、皆どこかで用いているはずです。それを意識的に訓練したり、距離を取って対象と向き合うのは、演劇論を知らなくてもできることですよね。また、日本においては、他者をリスペクトして和を保つことは素晴らしいものとされますが、震災後はそれが非常に窮屈な社会を生んでしまっています。少しでもザラッとした発言や出来事が起こると、ひたすらネットでバッシングされるなど、前近代の村社会に戻っている。そうした時に、それでも正論を言うこと。それはアートにしかできないと思っています。通常の価値観ならばグレーゾーンなことも、一つの問いとしてアートがそこに切り込んでいくことは可能です。アーティストの名において、失敗はいくらでも許される。これは単なる逃げではなくて、とても尊い価値だと思います。だからこそ、演劇を筆頭としながらアートの文脈の中で様々なチャレンジを提案し、モデルを作るということが重要なんです。実現可能なものとして教育や福祉に活用したり、プログラムしていくのはまた別の方が行うかもしれませんが、最先端で問いを立て、それを提示していくのは私が社会にできる大きな役割だと考えています。

1.フェスティバル/トーキョー
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ロメオ・カステルッチ 
宮澤賢治/夢の島から「わたくしという現象」(F/T11)
©Jun Ishikawa


日本最大の国際舞台芸術祭。「脱舞台」を掲げ、主催作品、公募プログラム、参加作品上演の他にシンポジウムなども行い、対話の場としても機能。東京で年1回開催。

2.NPO法人 芸術公社
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2014年、芸術が時代と社会に応答し、新たな社会モデルを提示するために設立。異なる専門知識を持つディレクターが、芸術に関わる各種事業の企画運営、研究調査を行う。

3.レクチャーパフォーマンス・シリーズ
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作品には登場しない演出家・映像作家が、自ら舞台に立ち観客に直接語りかけるパフォーマンス。国内外のアーティストに創作を委嘱し、世界へと発信する日本では初の試み。

Text _Megumi Murayama(Japan Life Design Systems
Photo _ Tomoki Hirokawa

(Life Design Journal vol.8 2016年4月15日号掲載記事転載)

相馬 千秋 (そうま ちあき)

特定非営利活動法人芸術公社 代表理事

アートプロデューサー。これまで、国際舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー」初代プログラム・ディレクター(F/T09春~F/T13)、横浜の舞台芸術創造拠点「急な坂スタジオ」初代ディレクター(2006-10年)等を歴任。2014年仲間とともにNPO法人芸術公社を立ち上げ代表理事に就任。国内外で多数のプロジェクトのプロデュースやキュレーションを行うほか、アジア各地で審査員、理事、講師等を多数務める。早稲田大学、リヨン第二大学大学院卒。フランス共和国芸術文化勲章シュヴァリエ受章。

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