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東京大学 高齢社会総合研究機構 特任教授 秋山弘子 × 谷口正和 スペシャル対談

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依存からの脱却「今、求められる生き方」

世界の先陣を切って超高齢社会に突入し、高齢化率もついに26%にまで達した日本社会。4人に1人が65歳以上となった今、課題先進国として日本は世界に何を提示していけるのか。東京大学高齢社会総合研究機構の特任教授 秋山弘子氏との対談から紐解いていく。

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課題先進国
日本の現状

谷口 日本は世界に先駆けて超高齢社会に突入し、高齢化率も急速に高まりつつあります。まさに課題先進国といえる日本についてどのようにお考えですか。

秋山 人口構造を見ると、高齢化が進行し、大きな転換期にあるといえます。かつて平清盛が武勲を争っていた時代、人生50年と言われていました。それから第二次世界大戦の頃まで続いた人生50年には誰もがたどるライフコースが構築されていました。ところが20世紀後半に平均寿命が30年近く延びて、今や人生90年と言われる時代になり、その生き方が問われています。

谷口 平均寿命が延びたことで、その波及効果はあらゆる場面に見られるようになりました。それは社会のあり方が多様化したことであり、個人の生き方もまた多様化したように感じます。

秋山 個人の生き方が多様化したということが、働き方に顕著に表れています。今の若い世代では一度就職しても3年くらいで転職する人は稀ではありません。それまでは仕事を変えるとなれば、本人に問題があると思われても仕方なかった。その社会的なプレッシャーが弱くなってきて、結婚するかしないか、結婚してもいつ子どもを産むのか、そして仕事もいつ切り替えるのか、自由に本人が選択できる時代となってきました。

谷口 暮らし方と生き方が重なりつつあるように感じます。人口減少に転じ、拡大一辺倒だった日本経済も円熟期を迎えた今だからこそ見えてきた課題を今一度、整理する必要がありますね。

秋山 今、日本社会には「個人」、「社会」、「産業」の三つの分野それぞれに課題があると思っています。まずは個人の課題です。人生90年を自分で設計して生きるということです。それは定年後に限った話ではなく、人生の全コースを自ら設計して舵取りをしながら生きていくということ。こうした自由は、私たちの世代にはありませんでした。私は学生に羨ましいと言いますが、学生たちはその価値を分かっていなさそうです。自分の能力を最大限活用して夢を追う生き方を選択できることはすばらしいことです。たとえば、45歳まで一つのことをやり抜き、残りの45年で全く異なることにチャレンジする。そして人生の最期をどのように閉じるのかについても考えておく。これが人生設計です。
 亡くなった人々に「もう一度死ぬ機会があったらどういう終末を迎えたいですか」と尋ねることができるならば、きっと日本人の半分以上は「あんな死に方はしたくなかった」と言うことでしょう。そうであるなら、若い頃から情報を集め、家族や友人とお茶を飲みながら話し合い、自分らしい人生の締めくくり方について考えて人生設計の中に入れておくのがよいと思います。

谷口 「人生設計」という言葉の持つ意味合いはとても重要です。人生90年となった今、人はどのように生き抜くことができるのかを考えていけます。その自由度は計り知れませんね。

秋山 次に社会の課題です。住宅や公共交通機関をはじめ、医療や介護のシステム、雇用制度や教育制度に至るまで現在の社会インフラは、若い世代が多く高齢者が5%くらいしかいなかった、年齢別人口構成比がピラミッド型をしていた時代にできたものです。現在、65歳以上の高齢者が26%に達し、2030年には75歳以上が20%以上となると言われています。日本の人口構成が逆ピラミッド型をしている状態であるにもかかわらず、時代のニーズとマッチしていないことが浮き彫りとなってきました。

谷口 すでに個人は、社会インフラに期待せずに自らが人生設計を描き、生きている人も登場してきました。「人生二毛作」と呼ばれる時代において雇用の現場は古きよき時代を回顧するような制度の上に成り立っているように感じます。

秋山 社会インフラを見直していく必要があります。教育制度においても現在の制度は若い世代の教育に極端に偏重しています。自ら人生設計をして舵取りをしながら生きていくためには、生涯にわたって学ぶ機会が必要です。社会制度を長寿社会に対応する形へと見直していく必要があります。

谷口 ハード面のみならず、ソフト面も含めた社会制度を整えていくことで、社会全体のボトムアップにつながっていきます。

秋山 その通りです。産業界も高齢社会だからこそ、求められるニーズに答えていかなければなりません。日本は長寿社会のフロントランナーとして、世界に先駆けて長寿社会の課題に直面します。今後、世界の国々も同じ問題に遭遇することは明白です。国内のニーズに対応する優れた製品やサービス、システムを開発して独自のビジネスモデルを構築し、世界に示していけば、市場は大きく、主要産業に育つことも夢ではありません。日本は1960〜70年代に高度成長を遂げた後に人口の高齢化が顕著になりました。一方、現在、アジア各国では経済成長と人口の高齢化が同時に到来しています。経済政策を優先せざるをえないので、どの国も高齢化問題を抱えていながら、何も手を打てていないのが実情です。その前を走っている日本が諸外国の模範となるようなあり方を示すことができれば、世界をリードする日本の基幹産業へと成長していくことでしょう。この着想を持った取り組みを加速させていくことが産業界の課題だといえます。

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フロントランナーとしての認識

谷口 高度成長期を経て日本は、間違いなく豊かな国となりました。しかし、それが意味するところは、ただモノとカネを集めただけではなくモノとカネ以外にも経験までも蓄積されていることを自覚しなければなりません。それが成熟化社会と呼ばれる所以だと思います。そうした日本の足元にある財を整理した上で人生が90年となった今を見つめなおす必要がありますね。
 人の人生が倍となった今、日本独自の特性を再活用していき、個々の地域社会に再編集し落とし込んでいく。たとえば、地域社会のコミュニティで構成する「地域家族」という考え方もその一例です。すでにAirbnbの取り組みを活用すれば、自宅をゲストハウスとして活用していくことができます。こうした取り組みが先行事例として、蓄積されていくものだと考えています。
 産業界に期待することも大きいのですが、世界から訪れる観光客たちに対して、サービスプログラムがどれだけ準備できるかは、もはや個人の自立化を促すほかにないような気がします。

秋山 千葉県柏市で市役所、UR都市機構と連携して「長寿社会のまちづくり」という社会実験を行っています。これまで柏市は「柏都民」と呼ばれるほど東京のベッドタウンとして栄えてきましたが、定年退職を迎えた高齢者が増えています。人生90年を暮らす長寿時代のまちとしてソフト・ハードの両面でまちづくりを進めているところです。
 その中、私が注目しているのは「セカンドライフの就労」です。柏に住むシニアに聞き取り調査を行ったところ、本当に元気です。まだまだ60代は中年と言って過言ではありません。しかも、長年培ってきた知識やスキル、ネットワークを持っています。しかし、口を揃えて「することがない、行くところがない、話す人がいない」と言い、普段の過ごし方といえば、家でテレビを見て時々犬の散歩に行くという生活をしています。人生50年時代の生き方しか知らず、長くなった人生を持て余しているのです。定年後のセカンドライフの選択肢として、近場の歩いていける距離で就労できるシステムを構築しました。幸いにして柏市は、利根川の流域であるため、土地が肥沃です。休耕地を耕し、野菜を作る仕事や、共働き世帯も多いので、子育てサポートなど多岐にわたる仕事を斡旋しています。セカンドライフの柔軟な働き方を創造することにも取り組んでいます。

谷口 高齢者に焦点を当てたビジネスは多くあります。得意技登録制度などを創設して、彼らの知識やノウハウを活用していければ、シニアの経験値が価値あるものへと変化していくのではないかと思います。
 何事においてもストックからフローさせていかなければ意味をなしません。それは、大金を支払う必要もないと思います。社会貢献というシナリオが活動内に感じられれば、きっと楽しさのほうが勝ると思います。

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「経験知」の個人財を社会財へ
生活クリエイターが社会を活性させる

秋山 おっしゃるとおりストックをフローにという点が重要だと思います。柏市で進学塾を経営している30代後半のオーナーは、ワンランク上の子どもたちを育てるために就労シニアを活用しています。国際的に活躍できる人材を育成するため、ニューヨークなどで長期駐在してきた商社をリタイアしたシニアを雇用しています。生きた英語が話せれば、学習塾の価値も高まります。そのほかにロボット開発に従事してきたシニアが率いるロボットクラブでは、レゴでロボットの作り方を学びます。先進科学技術に関心を持つ子どもが育っています。このようにシニアはビジネスの第一線で活躍されてきました。そのノウハウを活かさない手はないと思います。

谷口 そういうライフスタイルを実践していけるためにも、「人生設計」という認識が大切ですね。

秋山 人生設計はすべてが仕事ではありません。「働く」、「学ぶ」、「遊ぶ」、「休む」をうまく組み合わせて設計することを推奨しています。

谷口 現実は、働くことが学ぶことであったり、遊ぶことであったりします。そういう価値観をもって人生を設計していくことが望ましいですね。

秋山 それはセカンドライフを迎える高齢者に限った話ではなく、若い世代も同様にいえることです。働き、学び、遊び、休む、これらをバランスよく組み合わせた夢のある多様な生き方こそ、これからの新しい生き方ではないかと思っています。

谷口 人が持つ最大の財産は時間です。そして、人の能力はどれほどそれに時間を投資したかとなります。しかし、人生は金融経済のように時間を費やしたからといってすべてがうまくいくわけではありません。だからこそ、何でも自らで創造していく「生活クリエイター」だと自負し、夢を持ってチャレンジしていくことが求められます。その背中を見せていくことが次の世代の育成にもつながっていくはずです。

秋山 まず、新しい生き方の中核となる新しい働き方を実践するにはチャレンジ精神が欠かせません。能力を最大限に活かして、自ら設計した人生を舵取りしながら生きていける柔軟な社会の仕組みを創って、次の世代にバトンタッチしていければと思います。

谷口 人生90年となった今を生きることを素直に受け止めていく必要がありますね。

秋山 健康長寿を達成しても、人生にその人なりの創造や喜びがなければ、長寿社会の恩恵をフルに享受したとは言えません。定型のライフコースに縛られるではなく、さまざまな生き方があることを認識することが第一歩かもしれません。

谷口 生きることに目的意識を持たせるには、個人の夢を発表し、評価される場を用意してあげることが大切です。ただ、個人で蕎麦打ちをやっているだけでは社会化はされません。地域単位でそういう生きがいを見つけた人たちを集めて、コミュニティに参画していく場が今後、重要になってきます。

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「生きる」ことの目的化
一人ひとりに魂の革命を

秋山 一人ひとりが立ち上がろうとしている時に企業は、シニアを継続雇用という形でつなぎ止めています。これは、どう考えても歪に見えてしまいます。給料を半額にしてフルタイムにして会社にとどめています。そして誰でもできる仕事が任されている実情を見ると、もったいないと思います。

谷口 その認識を振り切るためにも、私はシニア一人ひとりに「魂の革命」が必要だと思っています。自らが自分の人生を創ることが重要であるはずです。継続雇用は単なる準備期間として捉え、結局は自分の手足で何かを始めるべきだと思います。年金が下がったら困るとただ嘆くだけではなく自宅をゲストハウスとして活用し、生活費を自ら稼ぐことを考えるなど、さまざまな知恵を活用して生活費をまかなう術を実践していく時代だと思います。
 しかしながら、生活費は国や企業から「もらうもの」という認識のままでは到底意識は変化しないでしょう。給与というシステムで捉えていては、結局、金銭の貸与の論議に陥ってしまい、「生きる」ことの目的化はできないと思います。

秋山 何を目的にして生きるかという意識の問題ですね。まだまだ十分とはいえませんが、雇用制度が改められつつある今、生活者がどのようにワークライフバランスの概念を自分たちの暮らしに取り入れていけるかが大切になってきますね。

谷口 その通りです。継続雇用期間に限らず、今からでもウィークエンドベンチャーとして休日を使って、自分が将来にやりたいことを探してみることもできるはずです。

秋山 継続雇用のあり方も給料が6割になるなら週3日出勤、残る4日で次のキャリアの準備・助走ができる制度設計になるとよいですね。こうした社会レベルの改革をしていかないと、長く生きることが地獄を見る時代となってしまいます。世界に先駆けて長寿社会を達成した日本、先を行くモデルはなく、私たち一人ひとりが創意をもって畑を耕していかねばならないと思います。

谷口 どんなに固定観念に雁字搦めになっていても、人はきっかけがあると変われます。そこに火をつけていくことが私たちに課せられた使命ではないかと思います。今日はいろいろな先行認識をいただけ、ありがとうございました。先生のご活躍に私たちも連携したいと思います。

秋山弘子 (あきやまひろこ)

東京大学高齢社会総合研究機構特任教授

1978年イリノイ大学Ph.D.取得後、オクラホマ大学老年学センター研究員。1984年ミシガン大学公衆衛生学部研究員。1985年米国国立老化研究所研究員。1987年ミシガン大学社会科学総合研究所研究科教授。1997年東京大学大学院人文社会系研究科教授を経て、2006年東京大学総括プロジェクト機構ジェロントロジー寄付研究部門教授。2009年より現職。2011年日本学術会議副会長。主な著書は『長寿時代の科学と社会の構想』(『科学』岩波書店、2010年)、『新老年学 第3版』(東京大学出版会、2010年)、『高齢社会のアクションリサーチ:新たなコミュニティづくりをめざして』(東京大学出版会、2015年)など。

谷口正和(たにぐちまさかず)

マーケティング・コンサルタント、株式会社ジャパンライフデザインシステムズ 代表取締役社長

1942年京都生まれ。京都鴨沂高校を経て武蔵野美術大学造形学部産業デザイン学科卒業。生命、生活、人生の在り方を問う「ライフデザイン」を企業理念そのものとし、地球と個人の時代を見据えて常に次なる価値観のニューモデルを提示し続ける。コンセプト・プロデュースから経営コンサルテーション、企業戦略立案、地域活性計画まで幅広く活動。時代を週単位で分析し続けている週刊「IMAGINAS(イマジナス)」はウィークリー情報分析誌の草分け的存在。会員制ワークショップとして、21世紀の新マーケット・パラダイム『文化経済』市場の商業、観光、産業の経営を学ぶ「文化経済研究会」を主宰。 日本デザインコンサルタント協会・副代表理事、日本デザイン機構・理事、日本Webソリューションデザイン協会・顧問、京都文化観光創造塾・座長等を務める。

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