20161209

杉浦記念財団理事長/ スギホールディングス副社長 杉浦 昭子さんインタビュー

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一人の患者さんのために、そして地域のために
ビジネスを超えた他者貢献の哲学で健康啓発や医療費問題に取り組む。

愛知県三河の地に創業以来40年。全国展開となった現在も一貫して地域医療への貢献を重視するスギ薬局グループ。創業者でもある杉浦昭子さんは、その経営を担いながら5年前に私財を投じて杉浦地域医療振興財団を設立、社会貢献事業に力を入れている。経営者と理事長、二足のわらじを履いて奔走する彼女にその思いを聞いた。

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人や地域のために役立ちたい、という思いが創業の原点

ー今年で創業40年を迎えられました。現在全国1000店舗という大規模な展開となっていますが、開局の経緯をお聞かせください。
スギ薬局は、1 9 7 6 年にスギホールディングス会長である夫と二人で始めました。40年前の薬剤師というと、男性は製薬会社のMR(医薬情報担当者)、女性は病院薬剤師というのが普通の時代でしたが、それよりも人の役に立ちたい、直接人とかかわっていきたいという思いが強く、いろいろ考えた末に薬局を開こうと決めました。
当時の病院は、“3時間待ちの3分診療”などと言われており、医師がじっくり相談に乗ってくれることは稀で、患者さんは自分の悩みや病気のことを聞いてもらいたがっていました。だから、そうした相談に対応できる薬局をつくりたかったのです。

ー当初はどのような状況だったのでしょうか?
最初のお店は畑の真ん中にぽつりとあって、来店される患者さんの話を、その生い立ちや家族、時には趣味にまでわたり2〜3時間もお聞きすることも珍しくなく、でも聞いてもらえた満足感からか、それで半分は治ってしまったということも少なくなかった。薬剤師としての知識や情報を加えながら、とにかく聞くことに徹しました。薬も売れているとか、流行っているとかは関係なく、患者さんごとに最も合ったものをお出ししました。自家調剤もやっていて、特に皮膚病の塗り薬はよく効くと評判を呼び、口コミで遠くからもご来店いただくようになりました。お客様もどんどん増えて、1号店は超繁盛店になりました。それが原点ですね。
創業時の、地域の役に立ちたい、住んでいる方々の健康を守りたい、一人ひとりのためにありたいという根源的な思いは今も変わりません。

財団も、やるからには楽しみながら、かつ有名にしなくてはと考えました

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ーその思いがいち早く在宅医療に進ませたわけですね。
調剤の訪問在宅医療を2002年から始めました。社会的にも高齢化問題が指摘されるようになり、在宅医療や地域医療の必要性が説かれるようになった時期。当時の店舗数はまだ120~130店舗程度でしたが、在宅医療に着手したのは薬局としては先駆け的でした。訪問調剤に対応するところもまだ少なかったのですが、当社ではいち早くクリーンルームを整備したり、輸液調剤を行ったりしました。採算は全く取れませんでしたが、地域とっては必要なことで、患者さんにも喜んでもらえるのだから、ということで先行投資に踏み切りました。結果的に患者さんからも医師からも高く評価され、応援もしていただきました。

ー事業には社会貢献の考え方が明確に反映されているように感じます。5年前に設立された杉浦地域医療振興財団(現杉浦記念財団)もその延長線上にある。
創業35周年の2011年に、財団を立ち上げました。会長である夫も地域の健康づくりに役立つならと、即了解してくれました。
私はどうせやるからには、楽しみながら、かつ有名にしなくては、とまず考えました。そういうことには、周りが驚くほどパワフルになれるのです。早々に日本看護協会で当時会長を務めておられた久常節子先生に相談にうかがいました。いろいろと厳しい質問もありましたが、一生懸命に受け答えをし、最後は人のご紹介までいただきました。内部で研究会をつくったときも、急なお願いにもかかわらず、国立長寿医療研究センター名誉総長の大島伸一先生に丁寧にご指導をいただくことができました。
決して金儲けのためではないということをきちんとご理解くださり、信頼していただけたようです。人に恵まれたし、大変な勉強もさせてもらいましたが、今振り返ると危なっかしくて、逆にご心配いただいたのだろうなと思いますね(笑)。

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今回の杉浦地域医療振興賞・助成には全国から150件以上の応募があった。

ーその行動力には驚かされます。エネルギーの源はどこにありますか。
新しいことに取り組むのが大好きで、何かアイデアが浮かんだらじっとしていられない性格なのです。そして何をやるにも、まず人に会わなくては、と考えるタイプ。電話やメールではなく、直接会って話をすることに幸せを感じるのです。
財団設立後は、その核となるものが必要ということで助成褒賞事業の実施を考えました。ですが、褒章は自薦ではなかなか集まらない。本人から手を上げることはまずない無私な方々ですから、我々だけではとても探せない。そこで常にそうした視点をお持ちの先生方を軸に諮問委員会を設け他薦制度を採用しました。人知れず地道な活動をされている方を紹介してくださる。ありがたいです。
まず動いてみて、問題や課題が出たら対処する。やる前にあれこれ考えずに、まずやってみる。その中でさまざまに学びながら続けることが、人間の成長につながると思うのです。

無関心層を減らし健康寿命が延びる社会に変えていきたい

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ー医療の現状に危機感をお持ちですね。
そうですね。このまま進むと日本の医療財政が確実に破綻します。どんな人も高齢になり衰弱するに伴って、いずれは介護が必要になりますが、できれば最後まで自力で食べることができ、トイレにいけることが最良です。こういう人を少しでも増やすことが重要だと思うのですが、残念なのは、この現状認識や情報リテラシーが本当に足りていないこと。たとえば平均寿命と健康寿命の差が、女性ならば12年もあります。つまり衰弱し介護が必要な期間がそれだけあるということなのですが、年だから仕方ないと済ませてしまう方も少なくありません。
生活習慣病と虚弱(フレイル)を改善することにさえきちんと対応できればよいのですが、生活習慣病はなかなか減りません。虚弱の問題も、足腰が弱ると一気にさまざまな病気につながるのですが、自分は大丈夫という過信があるようです。
ある調査では「健康づくり」に興味があるのは国民の3割に過ぎず、残りの7割は無関心層。さらにその半分が「情報がないから無関心」と答え、半分は「情報もいらない」のだそうです。でも結果的に医療費の大半を使うのがそういう層というのが現実。私たちとして、そこをどう改善できるのか大いに悩みます。

ー医療財政問題の改善ということで、すでに具体的なアクションを起こされています。
国もこの問題への取り組みを支援しており、地域に密着し住民も足を運びやすい薬局がその主体として評価されています。現在、年間10回以上もの健康増進セミナーを地方都市で開催していますが、遠くはいやだが身近な町でやるなら行ってみよう、という方もいて、どこも400~500人規模の参加があります。
そこには楽しみの要素が必要です。役立つ内容でも難しい話では聞いてもらえないので、イベント仕立てで楽しんでもらえるように工夫しています。取引先企業の協力を得て具体的な商品を絡ませたり、健康関連情報を提供してもらったりすることで興味を持つ参加者も増えています。

ー着実に結果を出されています。今後、目指すところは何ですか?
健康に無関心な人の興味を少しでも高め、健康寿命が延伸する社会に何とか変えていきたい。財団では、この秋にそのための研究会を新たに始動します。30人のメンバーになるので準備で全国を飛び回っています。
時代は大きく変わりましたが、目の前の患者さんやお客様、一人ひとりと向き合い、じっくりと話をうかがう、その哲学は変わりません。皆さんと連携しながら、世の中や地域の方々が喜ぶことをやっていきたいです。考えるとわくわくしますね。

Close Up 5種の健康チェックを専門サポートで行う先進の店舗づくり
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高浜店店内の健康測定コーナー

老人介護福祉の進んだ街として知られる愛知県高浜市。スギ薬局高浜店は、健康チェック機能や地域コミュニティ貢献を強く意識した店づくりが特徴となっている。まず目に付くのは、入口左手に設けられた健康測定コーナー。血管年齢や脳年齢、血圧、骨密度、筋肉量・脂肪量など5つの測定機器が設置されており、薬剤師や管理栄養士のサポートで誰でも無料で利用できる。この規模は全国でも珍しい。
奥に設けられた調剤室は全面ガラス張りで、床を一段高めに設定、薬剤師から店内が広く見渡せ、お客様のケアもしやすいという。隣りのコミュニティスペースにはイスとテーブルがおかれ、地域の住民向けに、栄養相談や育児相談、健康測定会等のミニイベントを実施している。
多様な健康食品が陳列されたゾーンは見せ方にも一工夫。「乾燥肌が気になる人向け」「若々しくいたい人向け」といった生活者ニーズを踏まえた商品構成となっている。1ヵ所に健康もあれば美容もあるということで、同店には管理栄養士2名とビューティアドバイザー1名が常駐、情報提供にも力を入れる。そして食品売り場にも健康アドバイスを記載したPOPなどが大きく掲げられており、薬局ならではの健康への配慮がうかがわれる。

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分かりやすく健康情報を伝えるPOP

杉浦 昭子(すぎうらあきこ)

杉浦記念財団理事長/スギホールディングス株式会社代表取締役副社長

京都府京都市生まれ。1976年岐阜薬科大学製造薬学部卒業後、夫の広一氏とともにスギ薬局を開局する。82年スギ薬局取締役、93年専務取締役、97年取締役副社長などを歴任後、2008年スギホールディングス株式会社代表取締役副社長に就任。その後、11年に杉浦地域医療振興財団を設立し理事長を兼務。2015年に一般財団法人から公益財団法人杉浦記念財団となる。

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