20161216

株式会社ウェルネス・アリーナ 代表 梶川 貴子さんインタビュー

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スパというとエステのようなものを思い浮かべる人もいるだろう。しかし、もともとは聖地とされる場所に存在し、自然の力を取り入れながら生命力を高めていくのが、スパ。
本物のスパを着々と作り上げている梶川貴子さんにスパに導かれるまでの道のりと、これからの可能性を聞いた。

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バブル時代は「健康」のことなんて今ほど話題にならなかった。そんな時代をひた走りながら、一方で、真の幸せを問い、それを叶える健康がフィーチャーされる時代の到来を予感していた。

心と体の健康が、当たり前のように語られる時代がくるだろうと思った

ーコンサルタントとして第一線で活躍されていました。スパや健康のことに興味をもたれたきっかけは?
私が就職したのは男女雇用機会均等法の2期目でした。それまで女性が働く機会は限られていたわけですから、働けるだけで幸せ。機会を与えられた人は命をかけて働かなければいけないという風潮でした。体調が悪くても我慢。太く短く生きることが美徳の時代でした。

ところが30代半ばになり、いくら頑張ろうと思っても、思うように体が動かず頑張れない自分に直面しました。この働き方では続かない。子どもの頃は体が弱くて苦労したこともあってか、この気づきは、周りの人よりも半歩早かったように思います。

その後、バブルが弾けて社会構造が変化。身近にいた人たちの健康が侵され、精神的な安定性を失う様を見ることになります。まだ健康は二の次の時代でしたが、私はいずれ、心と体の健康が当たり前のように語られる時代がくるだろうと思いました。

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フランスのINSEADのマネジメントコースに参加したことも大きかったです。私は30代半ばでしたが、他の参加者のほとんどは50代。錚々たる会社の経営幹部の人たちでした。順調な人生を送っているように見えるその人たちが、心身の健康や家庭に問題を抱えている。そして、この先のビジョンがないと言う方が多いことに驚きました。

私はそこで、20 年後の自分を考えることができたのです。人として健やかに一生を終えるためには何が必要だろう? それはおそらく、自分のことだけじゃなく、家族のことや社会のことを想ったりする人生。勝つことだけが人生じゃない。これからはそういうことが求められる時代になるだろう。
それからです。おぼろげながら、“健康”や“地方の再生”を、この国の誇りある産業を活性化することで実現していくことを、一つの夢として描くようになりました。

ーこの時の想いが、スパコンサルタントの道につながったのですね。
帰国後、ウィンザーホテル洞爺の再生プロジェクトに参画。そこで私は日本初となるホテルスパを立ち上げました。それ以前からスパフリークではありましたが、スパを作ることに関しては素人です。そんな素人が、設備だけでなくスパのメニュー開発、セラピストの育成など、すべてを考えなければいけない。暗中模索、試行錯誤を繰り返し、当時の日本ではあまり馴染みのなかったデスティネーション・スパ(滞在型スパ)を作り上げました。

スパでは“オリジナリティ”を意識し、地域の財を活かして富良野や美瑛のラベンダー、カモミールやローズといったハーブをスクラブなどに活用。ミシュラン三つ星のミシェル・ブラスに影響を受けたスパ・キュイジーヌでも注目を集めました。そしてこの経験によって、医療や食、トリートメントなどのコンテンツを集約させたスパが、“健康”や”地方の再生”を叶える一つのひな形になるかもしれないと気づいたのです。

ーそのひな形ともいえるのが、自社ブランドである「ALL THAT SPA」ですね。
2013年にインターコンチネンタルホテル大阪内に開業した「ALL THAT SPA OSAKA」は、都会の中にありながら、茶室のような静寂が感じられる空間。〝人は自然の一部?という考え方のもと、自然の恵みや季節感が体感できるスパを作りました。そして、2015年に四国・松山の瀬戸内リトリート青凪に開業した「ALL THAT SPA SETOUCHI」は、瀬戸内の風景が窓いっぱいに広がるトリートメントルーム。スパで使うプロダクトには、地元の柑橘類を使用しています。ALL THAT SPAは、その地域の風土や恵み、そこにしかないオリジナリティを活かすことを大切にしています。

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和の要素を取り入れた内装デザインのALL THAT SPA OSAKA。 スパスイート(写真左上)には、チャクラの概念と日本の伝統色を組み合わせ、山吹、常盤などの名前が付けられている。

スパという素敵なコンテンツで社会課題に取り組んでいきたい

ー梶川さんはよく、「スパ的なライフスタイル」という表現をされますね。
そもそもスパは、ホテル業界がリードし、温泉やマッサージという領域を超え、ライフスタイルとして確立されてきています。スパ的なライフスタイルとは、自然の力を借りながら、食事やマッサージなどを通して生命力を高めていくもの。その背景には医学的なエビデンスも揃ってきていますが、美しく快適な空間や人の手にスパという素敵なコンテンツで社会課題に取り組んでいきたいよるケアで、五感に訴えることが重視されています。
スパ的ライフスタイルは誰にでも実践できます。たとえば、アロマオイルを使ったハンドマッサージ。マッサージをする人もされる人も、アロマの香りで心身がほぐれる。ハンドマッサージには、神経を活性化させ、認知症の進行を遅らせるというエビデンスがあります。こういうことを介護の現場でも取り入れるとよいのではないでしょうか。

ースパは社会課題の解決にも活用できるとおっしゃっています。
日本の医療費は40兆円を超え、近い将来は50兆円になるでしょう。健康を脅かすものとして、私が一番問題視しているのが「食」です。
スパはもともと栄養学から発達したもので、正しい物を食べ、正しい運動をし、正しく代謝できるようにマッサージしましょうというのがスパの概念。どちらかというとマッサージの部分だけが目立っていますが、本来は食べることがセットでないと意味がない産業です。食も含めた本来のスパを、地域の健康拠点としてつくることができれば、医療費の削減や、地元の産業育成も叶えられる。これは100%確信があります。

ー素敵なことを通して健康が得られる。それがスパの魅力ですね。
日本人の多くは、「薬草」よりも「ハーブ」という響きに惹かれるでしょう。「病院に行く」よりも「スパに行く」のほうが笑顔になれるはずです。スパという素敵な、実体のあるコンテンツを皮切りに、深刻な医療費問題にも取り組んでいきたい。ホテルスパは贅沢だ、アッパーだと口にする方もおられるのですが、スパの領域の広さを考えると、プレミアムマーケットだけでなく、広範囲な産業に影響を及ぼせると思っています。だからこそ、スパが「素敵なこと」であり続けるよう、イメージづくりを常に心がけることが大切だと思っています。

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ALL THAT SPA SETOUCHIのトリートメントで使うハーブボールには、地元の柑橘類の陳皮を用いている。

Close Up ALL THAT SPAのセラピー
「ゆるめる」「巡らせる」「おぎなう」の3つのプロセスを軸に、複雑化する社会の中でコチコチになった心身を、生命力のある元の状態に戻すセラピー。水や植物の力、温めなどを通して眠りやすい環境や音楽も考えている。本当のスパは自然豊かな場所、いわゆる聖地とされるような場所に存在するものだが、それを都会の中でも得られるよう、自然界の力強いパワーをもつ素材を厳選し、プロダクトの中に凝縮。癒やしのパワーを宿したセラピストたちの「手」により、心地のよいケアを提供している。

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ALL THAT SPAのプロダクト。ネロリやローズ、月桃など全て国産素材でブレンド。気分に応じて3つの香りが選べる。

梶川 貴子 (かじかわ たかこ)

株式会社ウェルネス・アリーナ 代表取締役社長

1964年宮崎県生まれ。ボストン コンサルティング グループで国内外の戦略立案に従事した後、日本コカ・コーラ株式会社でブランドマネジャーとして爽健美茶の立ち上げなどを担当。2001年よりザ・ウィンザーホテル洞爺の再生プロジェクト、03年よりフェニックス・シーガイア・リゾートの再生プロジェクトに参画。06年ホテルスパを中心とした人材教育、コンサルティング事業を行う株式会社ウェルネス・アリーナを設立。13年インターコンチネンタルホテル大阪内に、自社ブランドである「ALL THAT SPA OSAKA」を開業。15年瀬戸内リトリート青凪に「ALL THAT SPA SETOUCHI」開業。国内外のスパに精通し、スパのコンサルティングや運営実績多数。

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