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「微力だけど、無力じゃない。」 田中康夫

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 1981年に刊行した処女作『なんとなく、クリスタル』(1981年刊)の最後に、合計特殊出生率と高齢化率の将来予測数値を付記しました。当時24歳の僕は、「量の拡大」から「質の充実」へ、認識と選択を転換せねば日本は立ち行かなくなると、漠然とながらも感じていたからです。
その35年後、衝撃的だった予測すら遙かに超える合計特殊出生率1.42、高齢化率26.7%の超少子・超高齢社会に突入し、日本は黄昏かも知れないと少なからぬ人々が不安を感じています。けれども、実はタイの合計特殊出生率は日本と同じ1.4台。ヴェトナムも1.7台。平均年齢が若いASEAN諸国も30数年後には、日本と同じく逆ピラミッドの人口構造へと陥るのです。
 嘗て、日の入りは「誰そ彼(たそかれ)」、夜明け前は「彼は誰(かわたれ)」と呼ばれました。そうして後者の「彼は誰」は、江戸初期まで両方の時間帯を指す言葉でした。即ち、一人ひとりが五感を働かせて、向こうに立っている人が誰かを見極めねばとの意味合い。
とするなら、「量の維持」でなく「質の深化」へと認識と選択を転換し、IOTの時代たればこそ、人が人のお世話をして初めて成り立つ福祉・医療・教育・環境の分野で新しい労働集約的産業のあり方を構築してこそ、世界に先駆けて21世紀のロールモデルを日本から発信する「彼は誰」=夜明けとなるのです。
[2016年4月1日発行『構想の庭』第2号 再録]

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田中康夫(たなか やすお)
1956年東京都武蔵野市生まれ。作家。一橋大学法学部在学中に『なんとなく、クリスタル』で「文藝賞」を受賞。2000年~06年長野県知事、2007年~12年参議院議員、衆議院議員を務める。近著に『33年後のなんとなく、クリスタル』『たまらなく、アーベイン』(ともに河出書房新社)。 http://tanakayasuo.me/

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