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水の国を考える 嘉田由紀子

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 琵琶湖周辺の集落では、昭和30年代には16%の集落で琵琶湖や河川の水を直性に飲み水にしていました。その理由は、当時、し尿をはじめ、汚水を一滴たりとも河川や湖に流さなかったからです。米の研ぎ汁やナスのヘタなども溜めておき、牛などの家畜の餌にしたり、畑に持っていき、風呂の落とし水ですら川に流さず、尿と一緒に畑に撒いていました。「もったいない」と栄養分を使い回しをした、これが「伝統的用排水システム」です。
 しかし、高度成長期以降、このシステムは崩壊してしまいました。その根源は、トイレの水洗化です。近代住宅の登場により、汚水をすべて川に流してしまう住宅が日本中に広がっていきました。この時期を境に汚い水を川や琵琶湖に流さないという観念が失われてしまったのです。
 一方、日本には「神仏習合」の思想があります。土着文化を排除するのではなく融和するというこの思想は、多様化が叫ばれる現代社会において重要な意味を持つと思っています。
 私も滋賀県知事として、原発の危険性を訴え「卒原発」の暮らしを提唱しても何も変わりませんでした。人と水、人と自然との共生を社会に融和させていくため、「琵琶湖の番人」として私は毎朝琵琶湖から昇る朝日に手をあわせ、琵琶湖の水を飲むことを日課にしています。神仏習合の思想を貫き、地域循環型の「もったいない」サステナブルライフを構築しながら、比良山の向こうの若狭湾岸の原発を監視していきたいと思っています。電源の代わりはあっても琵琶湖の代わりはありません。
[2016年4月1日発行『構想の庭』第2号 再録]

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嘉田由紀子(かだゆきこ)
1950年埼玉県生まれ。京都大農学研究科博士課程、ウィスコンシン大学大学院修了。農学博士。滋賀県立琵琶湖博物館総括学芸員、滋賀県知事などを経て、現在、びわこ成蹊スポーツ大学学長。環境社会学者。著書は『知事は何ができるのか――「日本病」の治療は地域から』『いのちにこだわる政治をしよう!』(ともに風媒社)など多数。

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定価:1,000円+税
判型:新書判 並製本  総頁数:304頁
発行:LIFE DESIGN BOOKS

情報社会から「情緒社会」への転換 /月尾嘉男
気持ちを突き動かす「ファッション化」の未来 /浜野安宏
ノックしないドアは開かない /水野誠一
日本の滅び方 /上野千鶴子
「社会構想」というアポリアを抱きながら /望月照彦
プラチナ社会への挑戦 /小宮山宏
「おもろいこと」が世界を変える /山極壽一
微力だけど、無力じゃない。/田中康夫
水の国を考える /嘉田由紀子
「移動と交流」が開く新時代 /寺島実郎
「多様性」の再検討と社会的イノベーション /井関利明
ファインダー越しに見える「美」のエネルギー /遠藤湖舟

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