日本の農業の未来が見える! 新刊『地域農業のスプラウト』

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ライフデザインブックスから発行の新刊『地域農業のスプラウト』。
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本書は、東広島市で農業支援の活動を行う岸保宏さんの思いの丈が書き込まれた一冊。地方創生、町おこしなどが声高に叫ばれる以前から、地元のために取り組まれてきた活動の一部始終が詰め込まれています。
また、この書籍の著者である岸保宏さんは約10年前、谷口が立命館大学大学院経営管理研究科で教鞭を取っていた時の一期生。当時を懐かしみながら、日本の農業について語り合う二人の対談が本書には収録されています。その一部をご紹介します。ぜひ、お楽しみください。

第二章 農業経営の未来のカタチ 谷口正和先生×岸保宏

左 谷口正和氏 右 著者の岸保宏氏

立命館大学大学院経営管理研究科の恩師である谷口正和先生(左)と、著者の岸保宏氏(右)の二人で日本の農業、これからの農業について語り合いました。

「社会人」を振り返って

谷口 今回、これまでの経験を踏まえ、1冊にまとめることに対して、どんな思い入れがあったんでしょうか。
岸保 今、ちょうど節目の時期だと思っています。本当は40歳で出版したかったんですが、41歳になった今、ちょうど、人生の棚卸しができる良い時期だったのかなと思っています。
谷口 働き盛りの30代から次のステージへ移行する次の10年を見渡すということですね。人生の後半区として、将来を見据える時、今が非常に重要な時期です。仕事も趣味も一朝にしてならずです。すると、これからは少し長期的な目線で仕事を見つめていかなければならないと気づくわけです。それまでは、毎日、落ち着きもなくバタバタしているだけ、みたいなところがあるもんですよ。
岸保 確かに、10年くらい前と比べたら、だいぶ落ち着いてきたところはあります。
谷口 30代を振り返ってどうでしたか。
岸保選挙に出馬したのが36歳でした。この時は、とても大変でしたよ。最初は、選挙事務所すらない状態で、支援者から「事務所は必要だよ」と言われ、支援者の人が借りてくれたんです。
谷口 ただ、現実的にいうと、選挙で訴えかけても、思い通りにいかない、という体験もしたわけですね。
岸保 ええ。僕は、トップ当選するものだと信じきっていましたから。投票日の前日である土曜日、20時に演説が終わった後、みんなで飲みに行ったんです。翌朝の3時半くらいまで「勝った、勝った」とドンチャン騒ぎしていました。「普通の人は電話をかけるもんじゃ」と言われたりしたけれど、「いや、僕は電話線なんて引いとりゃせんで」と答えると、「バカじゃないか」と言われてしまいました。だから、負けるべくして負けたんです。
谷口 振る舞いとしては大物なんだよな(笑)。
岸保 アホやからタクシーで飲みに行ってました。そうしたら、目の前を他陣営の車が帰っていく。まさか他陣営は、立候補者が飲みに行っているなんて思わないだろうなぁと思っていました。タクシーの車内では「次はどうしようかとか、こういうのをやっていこう」なんて話をしたりして、ワイワイと盛り上がったんだけども。
谷口 一度、その体験したのは大きい。必ず自分の糧にはなっている。また、選挙への出馬の衝動に駆られているんじゃないの。
岸保 いやいや、そんなことはないですよ。でも、カラオケとは比べものにならないくらい爽快感がありました。誰も話を聞いてくれないけれども、ビールケースの上に立って話していると、何人かは聞いてくれていました。子供が来て「お兄ちゃん、がんばって」とお菓子を持ってきたり、話を聞いてくれて泣いてくれたりする人もいました。公示後、5日目にもなると、自分でも「いいこと言っているな」と思うようになっていましたね(笑)。
谷口 でも、世の中を変えていくには、ぴったりの年齢になったでしょ。

著者の岸保宏氏

思いの丈を語る岸保宏氏

ミッションを求める旅人として

岸保 実は今、沖縄の仕事が入ってきて、それどころじゃないんです。そんな縁も不思議だなと思っています。20代の頃は東京が舞台で、30代に入って大阪、40代になる今、沖縄が舞台になるのかなぁと思っています。
谷口 人はミッションのあるところに移動します。「求めよ、さらば与えられん」という部分で、あなたが貫いてきた信念がすべてにつながっていますよ。広島が故郷だとしても、それを軸に行ったり来たりしながら、永遠のミッションの旅人になる、ということ。それが働き方としての理想かもしれません。近隣だけの話ではなくて、様々なところからキャスティングされるケースが増えてきているということは、社会に求められる人材になったと言えます。だから、日本を飛び出し、アジア、世界へと広がりをもって活躍していってもらいたいね。そういう親を見ていると、子供もその背中を見て育っていく。自分もいろいろなところへ出かけることを普通のことだと思うようになるから。
岸保 うちの息子は変わっています。
谷口 いいことだよ。親が面と向かって説教する時代は終わり。親がキーキーうるさく「勉強しろ」と言っても、「お前は勉強してないじゃないか」と子供に言われてしまう。むしろ、やっている姿を見せれば勝手に学習するものでしょう。
岸保 確かにうちの子供も、勝手に勉強しているんですよ。だから、受験対策をしなくても私立の学校に受かるんじゃないかと思っています。
谷口 「学び」というのは、自分で学習することだから。
岸保 昔、先生とお酒を飲んでいる席で、「子供に100色のクレパスか色鉛筆を渡しておけ」って言われて、すぐに探しにいって、50色の色鉛筆を渡しました。
谷口 それは、とても意味があります。色鉛筆は、単に絵を描くということではなく、様々な素材をエレメントとして使う発想を養います。それができれば、100の問題にぶつかった時、手元にある様々な絵の具を組み合わせて対処する知恵を持つようになります。様々な問題を解決していくためには、幼児期の感覚的な体験が大切です。その発想がないと、知恵を使う前に、頭で勝手に諦めてしまい、理屈っぽくなってしまいます。未就学児のうちに、そういう感覚を養っておくことが大事です。
岸保 実は、子供の絵が、住友生命の絵画コンクールで3年連続賞を取ったんですよ。もう天才じゃないかと思ってます。
谷口 褒められた体験が自信になる。「あれほどの自信家には、いったいどういうバックヤードがあるんだ?」という人がいるけれども、そこには解決できるという自信が満ち溢れています。
岸保 逆に幼稚園で同級生と話が合わないんじゃないか、と思ってね。
谷口 今は、そういう子が、いじめに遭うことがあるけれども、そういうことがあっても深く思い悩まないで、「人は違っていいんだ」ということを平気で言える子供になればよい。どういう人間に育ってほしいと思っていますか。
岸保 哲学者の中島芭旺(ばお)くん。あの子、いいなぁと思うんです。型にはまらない、自由な発想を持ち得た人間に育ってほしいですね。
谷口 〝岸保流未来論〟というスタイルが、あなたの生き様としてあるから、面白いと思うことにトライしてみようという柔軟性はとても良いと思っています。どちらかといえば、経営の眼目である収支モデルだけの視点ではなく、人が生きていく足場となる生産の現場から農業に注目したり、そこから新しい表現の姿として、ベジアイスに挑戦したりしているでしょう。それは区別された価値観の中にあるのではなく、それを超えたところで持続させていこうという姿勢が見られます。
岸保 そう言っていただけると、恐縮です。
谷口 これからの時代は、新しい課題発見と実際の行動の先行性によって、様々なモデルを抽出していき、どのように解決策を導いていくかだと思っています。ハーバード大学のビジネススクールで教える従来型のケーススタディは今、ほとんど意味がなくなってしまっています。新しいケースをつくらないといけない時に、過去に目を向けたストック学習の構造は、むしろ自分を縛ってしまってはいないか。新しい価値やビジネスを構築していくためには、それにも勝るサービス精神が必要です。そういうところを、あなたは早くから意識して行動に移していたような気がしています。
岸保 あの頃はまだ20代ですから、元気もありました。学び舎に入るのは今ぐらいだったら、もっと吸収できることが多かったのかもしれません。
谷口 でも、その時があなたの学ぶ時だったんですよ。
岸保 その後、結婚したので、やはり、あのタイミングしかなかったですね。今思えば、とても無謀なことはできなかった。お金も2年間で360万円もかかっていましたから。翌年から300万円になったのを見て、あれだけマーケティングで「価格じゃない」って教えていたのに、そんなに値段を下げるんだ⁉︎ と、周りがワイワイ言っていました。僕たちの周りは言う奴ばっかりだったから。
谷口 学年によって特徴がありました。よく発言する学年は、非常に有能な発言をしていました。一方で、シーンとしていて印象の薄い学年もあります。
岸保 授業の後には、先生と一緒に飲みによく行きましたね。初めは4回目か8回目だけ行こうと思っていたら、周りのみんなも付いてきて、毎週、飲みに行っていました。実はみんな先生と話したかったんですよ。

岸保さんの思いを聞き入る谷口正和氏

岸保さんの思いを聞き入る谷口正和氏

人生100年時代の将来設計

谷口 〝岸保の未来論〟として、自分をどのように育てようと思っているの?
岸保 今は、小さいもの、小規模なものを支える人間になりたい、と思っています。だから、究極的には個人、個ですよね。そこにすごく意識が寄っています。で、たまたま農業に深くかかわってきたのでこれからも農業にかかわっていくと思っています。今の僕には三つのキーワードがあって、それは農業、飲食業、クラウドファンディングになります。農と食はつながってくるんですが、クラウドファンディングは小規模な投資家から集めるので、これに組み合わせていくと、もっと広がりが出るんじゃないかと感じています。
谷口 最も重要な生活基盤が食文化だと思えれば、素敵なビジョンを提示して賛同を募って事業を進めていくことも可能ですね。事業は、投資と回収だから、未来に対する投資がどれくらい共有できるかにかかっています。自分で事業をしていくということもあるんだろうけど、相談に乗ってアドバイスをするコンサルタントワーカーとしての可能性はありますか。
岸保 プレイヤーを続けていたいと思っています。ただ、プロ野球を見ても、高校時代は4番でエース級のピッチャーばかりがプロ入りするけれども、プロの世界では代打に徹する選手もいるし、バントばかりする選手も必要です。それぞれの役割に注力した結果、成功があると思っています。
谷口 プロジェクトチームとして未来を共有できる仲間同士でやっていかなければ、夢の実現にまでは至らないでしょう。しかし、それぞれ個人が、まずは一人でもやってみようと思えることが大切ですね。それが発芽点となり、チームが作られていきます。だから、役割分担だけではなく、今後も「これは、1回自分でもやってみるか」という柔軟さは残しておいてもよいかもしれないね。
岸保 昔は、外からの評価をすごく気にしていました。だから、あまり発言できなかった。しかし、農家の人たちがファーマーズマーケットに出てきた時に、「こういうことを考えているのかな」とか、「どうすればいいのか」というアイデアが出てくるようになったのは、プラスに思える点ですね。
谷口 さっきの野球の話じゃないけれども、それぞれが得意領域を持っている中で、それを活かしたキャスティングがなされたチームを見れば、全体としてレベルを超えることはあるわけだよね。僕とあなたが出会ったのは、いわゆるMBAのビジネススクール。時代の変化を活用しながら、新しい経営とは何かを問いかけるという枠組みの中の学習の場だったと思う。だから、ややもすれば知識学習になるが、でもこれに固執すると活用できません。その心配をよそに、あなたは「知っておくべきことだけれど、単なる知恵なんだ」と飲み込んで行く力があったと、僕は思っています。
岸保 1年目ということもあり、先生方も力が入っていたと思っています。また、手探りで「どういうものをつくっていこうか」というところで時期的には、僕は面白い時に入ったと思っていますね。
谷口 あの頃、集まった先生方は、それぞれの現場で培ったものを惜しげもなく披露して、その知識をみんなに提供するという気持ちが、全体で盛り上がっていました。情熱とリアルなキャリアを持っていたのは、あの辺の時代が一番だと思うよ。
岸保 もう11年前です。
谷口 11年前は、もう完全に一昔前の話です。スマホさえありませんでした。しかし、今、情報化社会の速度が高まり、世界化したことで、それをチャンスに変えられるようになりました。「昔のケースを掘り出してきて、もう一度同じことをやろうと思っています」ではなく、小さな単位に目覚め、個人の立脚点を重視するということが、まさに時代を心得た認識だと思うよね。そういう意味では、新しいことをしようとする人とつながっていく必要もあると思っています。
岸保 あの頃も〝個〟というものにすごく注目していて、ファイナンスをしながらも個で見るというパーソナルファイナンス的な見方があって、僕は中小企業をサポートするという役割の中で知識を備えていく必要があると思っていました。だから感覚的には、会計のほうに寄った発言が多かった。でも実際は、マーケティングという違う分野も複合しながら、より大局的な視点が必要だったんですよね。
谷口 投資と回収を金融業界だけで語っていては、株投資での損得勘定から脱却できません。結局、ファイナンスも金融業という枠組みから脱却し、社会基準そのものを再編していく必要があったと思っています。俗にいわれる1800兆円にものぼる個人資産の積み上げは、将来の不安の表れです。その感覚を引きずっていては、いつまで経っても変わらないでしょう。そこから「あなたが描くロマンは何なのか」という夢が問われなければ、いつまでも解決の糸口は見えてこない。だから僕は、お金に価値軸を置かない風土が重要だと思っています。
 すでにストックされている資産を新しい価値を構築するために使用することになれば、人・物・金の流動が生まれます。それを実現するために、精力的に動けることがあなたの良い部分だと思うんだよね。「収支のバランスが取れていません」と指摘するだけが会計士の役割ではないことに気づいています。
岸保 そういう意味では、今、夢を語る人が少ないと思っています。だから、どうしても、目の前のお金とか、欲求ばかりを追いかけてしまう。選挙の時も、「10年後、50年後、100年後を考えて今、やろうじゃないか」と言っていたけれども、食料自給率がカロリーベースで40%未満ということは、食料がなくなれば60%は死ねということでしょう。まずは自国の食料を100%に持っていくことのほうが健全だと思っています。食は生命を守るもので、事業化は一部にとっては良いことかもしれないけれども、その本質となる部分は、生命を大切にするということ。そういう視点が、今の国の政策では、軽視されているようにしか思えてなりません。
谷口 よくわかる。その本質からはずれて、世界が相互に依存し合う社会こそ、あるべき未来像として取り沙汰されてきました。しかし本当は、先進諸国の自給率のように、なるべく自給する項目を増やして、自己解決の領域を広げることが、自信を持って生き続けられる方策になります。いずれお金で食料が買えない日が来ることに気づいていない。食べ物が足りなくなった時、お金さえ支払えば、いつでもどこかの国が売ってくれるとは限りません。

続きは、『地域農業のスプラウト』で!

また、『地域農業のスプラウト』は、広島県産の農産物と一緒に購入できるクラウドファンディングにも挑戦中!

岸保 宏 (がんぼ ひろし) 株式会社マスタード・シード22代表取締役

1976年広島県庄原市生まれ。農業支援を目的に規格外野菜を使ったベジアイス(商標登録)を企画・販売や地域活性化のためのイベント企画、地域ブランド商品支援、産直拠点の構想支援なども行う。現在、農と食の連携の観点から飲食業会計研究も進めており、クラウドファンディング研究も含め、3本柱で取り組む。平成29年から農林水産省6次産業化プランナーも務める。

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